IATF 16949 10.2.2項【要求事項解説】

1. はじめに

IATF 16949の「10.2.2」は、品質マネジメントシステムにおける不適合の管理に関する重要な要求事項の1つです。

このセクションでは、不適合が発生した際にどのようにその証拠を文書化し、記録として保持する必要があるのかを定義しています。

具体的には、不適合の性質や、それに対する処置、そしてその後の是正処置の結果をどのように記録し、証拠として保持するべきかが記載されています。

不適合の記録と証拠の保持は、品質マネジメントシステムの透明性と信頼性を確保するための不可欠な要素です。

これらの情報は、将来の監査や改善活動の基礎となり、品質改善のための貴重なデータ源として活用されます。

本記事では、「10.2.2」の要求事項を詳しく解説し、実務における重要性を深掘りしながら、文書化された証拠をどのように管理・活用するかについて触れていきます。

 

2. 不適合に関する証拠の保持

IATF 16949では、不適合が発生した際にその詳細を明確にし、適切に記録していくことが要求されています。

これにより、組織は不適合に対する効果的な対応ができているかを後で確認できるとともに、問題の再発防止や継続的改善のために有効なデータを蓄積することができます。

2.1 不適合の性質とその処置

「10.2.2」の(a)項目では、「不適合の性質及びそれに対してとったあらゆる処置」を文書化することが求められています。

この要求事項は、発生した不適合の内容と、それに対して組織がどのような対応を取ったのかを明確にするためのものです。

不適合の性質には、以下のような要素が含まれます。

  • 不適合の種類:製品、プロセス、サービス、またはシステム上のどこで問題が発生したのか。
  • 発生した時期や状況:いつ、どのような状況で不適合が確認されたのか。
  • 影響範囲:その不適合がどれほどの範囲に影響を与えるのか。

不適合に対して取るべき処置としては、以下の内容が含まれます。

  • 修正処置:即時に不適合を修正するための対応。例えば、不良品の交換や製造過程の修正などです。
  • 是正処置:不適合の原因を取り除き、再発を防止するための処置。これは、原因を特定し、その後の改善策を講じることを意味します。
  • 緊急対応策:製品の市場出荷を一時停止する、製品を回収する、または顧客に対して報告を行うなど、影響を最小限に抑えるための一時的な対応です。

これらの詳細な情報を記録し、文書化することで、不適合に対する対応が適切であったことを証明することができます。

これらの記録は、監査の際にも確認されるべき重要な証拠となります。

2.2 文書化された情報の重要性

不適合に関する情報を文書化することは、組織にとって重要な理由がいくつかあります。

  • 透明性の確保:文書化された情報は、問題解決の過程を明確にし、組織の対応が客観的に評価される基準を提供します。
  • 後の改善活動に役立つ:不適合とその処置に関する記録は、将来的な改善活動において貴重なデータとして利用されます。過去の問題を振り返り、似たような問題が再発しないような対策を講じるために必要です。
  • 法規制遵守:特に自動車産業においては、品質に関する厳しい規制が求められるため、不適合対応の記録をしっかりと保持しておくことは法的な義務でもあります。

 

3. 是正処置の結果

IATF 16949の「10.2.2」の(b)項目では、「是正処置の結果」も文書化して保持する必要があることが示されています。

これは、不適合に対して講じた是正措置がどれほど効果的だったのか、その後の状況を確認するための情報です。

3.1 是正処置の有効性評価

是正処置は、単に不適合を修正するだけでなく、その根本原因を取り除き、再発を防ぐことが求められます。

是正処置の結果を評価することは、効果があったのか、問題が解決したのかを確認するために不可欠です。

具体的な評価方法としては以下のような方法があります。

  • フォローアップ:実施した是正処置が本当に効果的であったかを追跡調査し、その結果を確認します。たとえば、製品の品質が改善され、顧客からの苦情が減少したかどうかを監視します。
  • 再評価:問題の再発を防ぐために実施した処置が適切であったかを再評価し、必要に応じて追加的な措置を講じます。

3.2 是正処置の改善活動へのフィードバック

是正処置の結果を文書化することは、組織内での改善活動の一環として非常に重要です。

もし是正措置が効果を上げなかった場合、その原因を再度分析し、別のアプローチを検討する必要があります。

これにより、組織は品質マネジメントシステムを継続的に改善し、品質の向上を図ることができます。

また、是正処置の結果として得られた知見は、将来の不適合に対する対応策を決定する際に活用されます。

たとえば、過去の是正処置が他のプロジェクトや製品に適用可能であれば、その結果を踏まえた改善策を導入することができます。

 

4. 記録保持の管理と監査

組織は、不適合とその是正処置に関する文書を保持するだけでなく、それらの記録を適切に管理することが求められます。

記録が適切に管理されていない場合、後で参照することができず、品質マネジメントシステムの効果を十分に評価することができなくなります。

4.1 記録管理の重要性

不適合に関する記録を適切に管理することで、組織は以下の利点を享受できます。

  • 履歴の追跡:問題がどのように解決されたのか、その過程を追跡することができ、将来の改善活動に活かすことができます。
  • 透明性と監査対応:記録がきちんと整備されていると、監査の際に迅速に確認ができ、評価がスムーズに行われます。
  • 規制への準拠:不適合に関する記録は法的にも重要であり、規制に従って適切に保持する必要があります。

4.2 定期的なレビューと更新

記録は定期的にレビューされ、必要に応じて更新されるべきです。

これは、品質マネジメントシステムが常に最新の状態を保ち、改善が反映されるようにするためです。

 

5. 結論

IATF 16949の「10.2.2」は、組織が不適合に対してどのように対応し、その証拠を文書化して保持するべきかを示しています。

記録の管理は、品質マネジメントシステムの信頼性を高め、改善活動の基礎となります。

不適合の性質、処置の内容、是正処置の結果を詳細に文書化することで、組織は透明性を確保し、品質向上のためのデータを積み重ねていくことができます。

このような文書化と記録保持の活動を通じて、組織は品質管理の強化、顧客満足度の向上、そして法的な規制に対する適合性を確保することができるのです。