IATF 16949 4.3項:品質マネジメントシステムの適用範囲の決定【要求事項解説】

1. はじめに

IATF16949は、自動車産業の品質マネジメントシステム(QMS)の国際規格であり、企業が顧客要求や法令を満たす高品質な製品を提供するためのガイドラインを提供しています。

その中で、「4.3項:品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」は、品質マネジメントシステムがどこまで適用されるかを明確にするために非常に重要な要求事項です。

本記事では、IATF16949の「4.3項:品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」について詳細に解説し、企業がこの要求事項にどのように対応すべきか、どのような点に注意を払うべきかをお伝えします。

企業がこの要求を適切に満たすことで、品質マネジメントシステムの有効性を高め、組織全体での品質保証体制を強化することができます。

 

2. 品質マネジメントシステムの適用範囲

まず、品質マネジメントシステムの「適用範囲」とは、企業が実施する品質マネジメントシステムがどの業務やプロセスに適用されるのか、その境界を定めるものです。

例えば、製造部門のみならず、設計部門やサービス部門まで、どの部門や範囲に対して品質マネジメントシステムを適用するのかを明確に決定します。

適用範囲を定めることにより、企業は自社の品質保証プロセスの対象領域を特定し、規格の要求事項がどの部分に適用されるのかを理解することができます。

このような適用範囲の明確化は、品質システムを適切に運用するための第一歩となります。

 

3. 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定基準

4.3項の要求事項では、適用範囲を決定する際に考慮すべき事項として、以下の3つの要素が挙げられています。

これらを順に解説し、それぞれの意味と重要性について詳しく見ていきます。

(a) 4.1項に規定する外部及び内部の課題

IATF16949では、品質マネジメントシステムを適切に運用するためには、外部および内部の課題を特定し、それに対応することが求められています。

外部課題には、市場の動向や規制の変更、競争環境、技術革新などが含まれ、内部課題には、組織のリソースや能力、文化、プロセスの改善点などが該当します。

これらの課題を適切に把握し、品質マネジメントシステムの適用範囲を決定することで、企業は環境の変化に柔軟に対応できる体制を構築することができます。

たとえば、新しい技術や規制に適応するためには、適用範囲を製造部門だけでなく、設計部門や研究開発部門にまで広げる必要がある場合もあります。

(b) 4.2項に規定する、密接に関連する利害関係者の要求事項

次に考慮すべきは、利害関係者の要求事項です。

利害関係者とは、顧客、従業員、取引先、株主、地域社会など、企業の活動に直接または間接的に影響を与えるすべての関係者を指します。

これらの利害関係者が抱える要求や期待に対応することは、品質マネジメントシステムの目的の一つです。

企業は、自社が提供する製品やサービスが利害関係者の期待を満たすように、適切な品質マネジメントシステムを設計し、運用する必要があります。

例えば、顧客からの品質要求が厳しくなった場合、適用範囲を広げて、顧客の要求を全社的に反映させることが必要になることもあります。

(c) 組織の製品及びサービス

最後に、組織の製品やサービスに関連する要求事項を考慮します。

製品やサービスの特性、提供する市場、使用される技術や工程によって、品質マネジメントシステムの適用範囲は異なります。

例えば、自動車部品を製造する企業と、製造業向けのソフトウェアを開発する企業では、品質マネジメントシステムの適用範囲は大きく異なるでしょう。

製品やサービスに特有の品質要件を反映させることが、適切な適用範囲の決定につながります。

基本的には、製品の設計段階から製造、販売後のサービスまで全てにわたって品質管理が求められると理解しましょう。

 

4. 適用範囲の文書化と維持

決定した品質マネジメントシステムの適用範囲は、文書化した情報として明確に記録し、維持しなければなりません。

この文書化により、組織の品質マネジメントシステムがどの範囲に適用されるのか、誰がその責任を持っているのか、どの要求事項が適用されないのかが明確に示されます。

適用範囲の文書化は、内部監査や外部審査の際にも重要な役割を果たします。

監査員が品質システムの適合性を評価する際に、この文書化された適用範囲が正しいかどうかを確認することによって、組織が規格に適合しているかどうかを判断します。

 

5. 適用不可能な要求事項の正当性

IATF16949では、適用範囲内で適用できない要求事項について、その正当性を示さなければならないとしています。

つまり、もし企業が特定の要求事項を自社の適用範囲外と決定した場合、その理由を明確にし、適用しないことが適切であることを証明する必要があります。

このプロセスでは、組織がどのような基準で要求事項を適用しないことに決定したのか、またその決定が製品やサービスの適合性、顧客満足度に影響しないことを示すことが求められます。

たとえば、製造過程で特定の要求事項が適用できない場合、その影響が製品の品質や顧客満足度に影響しないことを証明しなければなりません。

 

6. 組織の能力への影響

また、適用不可能な要求事項が、「組織の製品及びサービスの適合並びに顧客満足の向上をに関連する組織の能力や責任」に影響を与えない場合に限り、その要求事項が適用しないことを表明することが許されます。

逆にいうと、もしその要求事項が、顧客満足度や製品の適合性に影響を与える場合は、適用を免除することはできません。

この点においては、品質マネジメントシステムが顧客の要求を満たし、製品が規格に合致していることを最優先に考える必要があります。

したがって、適用範囲外として決定する場合は、その正当性を厳密に証明できる必要があります。

 

7. 結論

IATF16949「4.3項:品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」は、品質マネジメントシステムの適用範囲を明確にするための基本的な指針を提供しています。

組織は、外部及び内部の課題、利害関係者の要求、製品やサービスの特性を考慮して、どの範囲に対して品質マネジメントシステムを適用するかを決定することが求められます。

また、適用範囲を文書化し、適用不可能な要求事項について正当性を示すことが必要です。

このプロセスを通じて、企業は品質管理の範囲を正確に定義し、顧客満足を確実に向上させるための適切な品質マネジメントシステムを構築することができます。

IATF16949の要求に従うことで、品質マネジメントシステムが組織全体で効率的かつ効果的に運用され、最終的には製品の品質向上と顧客満足度の向上につながります。

 

8. 関連項番

以下、関連項番の要求事項解説もあわせてご活用ください。

8.1 関連度:大(併読を推奨)

8.2 関連度:小