IATF 16949 7.1.2項:人々【要求事項解説】

はじめに

IATF 16949は、自動車業界における品質マネジメントシステム(QMS)の規格であり、品質向上を実現するためのさまざまな要素をカバーしています。

その中で「7.1.2 人々」という要求事項は、組織の人材をどのように管理し、必要な人々を確保していくかに焦点を当てています。

品質マネジメントシステムの成功は、最終的にはその運用を担う「人」に依存しています。

このため、IATF 16949では、組織が品質マネジメントシステムを効果的に実施するために必要な人々を明確にし、提供することを強調しています。

本記事では、IATF 16949の「7.1.2 人々」の要求事項を詳細に解説し、その実務における適用方法について考察していきます。

 

1. IATF 16949「7.1.2 人々」の要求事項とは?

IATF 16949「7.1.2 人々」の要求事項は、組織が品質マネジメントシステム(QMS)を効果的に実施し、そのプロセスを適切に運用・管理するために必要な人材を確保し、配置する責任を明確にしています。

具体的には、次のような内容が含まれています:

  • 必要な人材の明確化: 組織は、品質マネジメントシステムを実施するために必要な人々を特定し、その人材を確保しなければならない。
  • 適切な人材の提供: 組織は、品質管理の目的を達成するために適切な知識、スキル、経験を有する人材を確保し、その人材に適切な役割と責任を与えることが求められる。

この要求事項は、品質マネジメントシステムを運用する上で、人的資源が最も重要な資源であることを認識し、組織全体でその人材をどう活用するかを明確にするための指針を提供しています。

 

2. なぜ「人」が重要なのか?

品質マネジメントシステムの効果的な実施において、最も重要な要素は「人」です。

どんなに優れたプロセスやシステムが存在しても、それを運用する人々のスキル、知識、モチベーションが不足していれば、そのシステムは機能しません。

品質の改善、維持、向上を実現するためには、プロセスを理解し、実行できる人材の確保が不可欠です。

IATF 16949では、以下のような理由から「人」に焦点を当てています:

  • プロセスの運用と管理: すべての品質プロセス(設計、製造、検査、納品など)は、最終的に人々によって運用され、管理されます。適切な人材がいなければ、プロセスが効果的に機能することはありません。
  • 問題解決能力の発揮: 品質の問題や改善の必要性が生じた際には、その解決策を立案・実行できる人々の判断力やスキルが求められます。
  • 知識と経験の伝達: 組織の知識や経験が次世代の従業員に適切に引き継がれることが、長期的な品質向上には重要です。
  • 顧客要求の理解: 顧客の要求を正確に理解し、製品やサービスに反映させるためには、従業員がその重要性を認識し、行動に移すことが必要です。

 

3. 必要な人材の特定と確保

IATF 16949の「7.1.2 人々」で強調されているのは、品質マネジメントシステムを運営するために「必要な人々を明確にし、提供する」ということです。

では、どのようにして必要な人材を特定し、確保するのでしょうか?

(1) 役割と責任の定義

最初に重要なのは、品質マネジメントシステムの運営に関わる役割と責任を明確に定義することです。

組織内でどのプロセスにどのようなスキルを持った人材が必要かを洗い出し、その役割を果たすために必要な知識や経験を整理します。

  • 品質管理担当者: 品質管理の計画、監視、評価を担当する人々には、品質に関する専門知識が必要です。
  • 製造部門担当者: 製造プロセスの運用を担う担当者は、製造工程や設備の理解が不可欠です。
  • トレーニング担当者: 従業員への教育・訓練を担当する人々は、教育方法やコンテンツの開発に精通している必要があります。

これらの役割に対して、どのようなスキルセットが求められるのかを明確にし、それに基づいた人材の確保が重要です。

(2) 教育・訓練の実施

組織が確保すべき人材は、単に「必要な人」を集めることだけではなく、その人材が適切な能力を持っていることも重要です。

したがって、必要なスキルや知識を持つ人材を確保するためには、教育や訓練が不可欠です。

  • 社内トレーニングの実施: 既存の従業員に対して、品質管理の知識や最新の業界動向について教育を行います。
  • 外部研修の利用: 特定のスキル(例えば、統計的手法や品質改善手法)について外部の専門家を招いてトレーニングを実施することも有効です。

(3) 従業員のモチベーションと維持

適切な人材を確保した後は、その人材を長期的に維持し、モチベーションを保つための仕組みも重要です。

これには、効果的な評価制度やキャリアパスの提供が含まれます。

  • 成果評価と報酬制度: 従業員の成果を適切に評価し、それに見合った報酬を提供することで、従業員のやる気を引き出すことができます。
  • キャリア開発: 従業員が成長し、キャリアを積めるような機会を提供することも、長期的なモチベーション維持には欠かせません。

 

4. 組織内での人々の役割と協力

品質マネジメントシステムを効果的に運用するためには、個々の従業員が自分の役割を理解し、チームとして協力することが求められます。

組織内のすべての部署が協力し、共通の目標に向かって進むことで、品質の向上や改善が実現できます。

(1) 部門間の協力

品質マネジメントシステムは一部門だけで成り立っているわけではなく、製造、設計、調達、品質保証など、さまざまな部門が協力し合うことが重要です。

それぞれの部門が自分の役割を理解し、適切に連携することで、全体として品質目標を達成することができます。

  • 定期的な会議と情報共有: 部門間での情報共有や定期的な進捗確認会議を行い、問題点や改善策を協議します。
  • 共通の目標設定: 部門ごとに異なる目標を持つのではなく、組織全体として共通の品質目標を設定し、それに向かって協力します。

(2) リーダーシップの重要性

品質マネジメントシステムの運営には、リーダーシップが不可欠です。

リーダーは、目標達成に向けて人々を導く役割を果たし、組織全体のモチベーションを高める重要な役割を担います。

  • ビジョンの共有: リーダーは、組織全体に品質向上のビジョンを明確に示し、その達成に向けてチームを鼓舞します。
  • 問題解決の推進: 品質に関する問題が発生した場合には、リーダーが率先して解決策を見つけ、実行することが求められます。

 

5. 結論

IATF 16949「7.1.2 人々」の要求事項は、品質マネジメントシステムの成功には適切な人材の確保とその効果的な活用が不可欠であることを強調しています。

組織は、必要な人材を特定し、そのための教育、訓練、モチベーション管理を行い、全員が共通の目標に向かって協力する体制を整えることが求められます。

人材の確保と育成に力を入れることで、品質マネジメントシステムはより効果的に運用され、組織全体の品質向上に繋がります。