目次
1. はじめに
IATF 16949は、自動車業界における品質マネジメントシステムの国際規格であり、製品とサービスの品質を確実に維持するための重要な指針を提供しています。
その中でも「8.5.2 識別及びトレーサビリティ」は、製品やサービスが適合していることを確認し、その履歴を追跡するための要件を定めています。
この要求事項は、製品の状態を識別し、適合性を確保し、万が一不良が発生した場合には迅速に対応するために不可欠です。
本記事では、IATF 16949「8.5.2 識別及びトレーサビリティ」の内容を詳しく解説し、製品識別とトレーサビリティの管理方法について具体的な事例を交えて考察します。
2. 要求事項の概要
2.1 識別(Identification)
識別とは、製品またはサービスが適切に管理され、品質が確保されていることを示すために、それぞれの製品やサービスに一意の識別情報を付与することを意味します。
IATF 16949では、製造過程やサービス提供過程において、製品やサービスが適合していることを確認できるようにするために、適切な識別手段を使用することを求めています。
識別は、製品の状態を管理するための基本的な方法です。
製品が製造過程を経てどの工程にあるか、また、品質に関してどのような処理がなされたかを明確に識別できることが求められます。
これにより、品質管理を適切に行い、不適合品の発生を防止することができます。
2.2 トレーサビリティ(Traceability)
トレーサビリティは、製品やサービスの履歴を追跡できるようにすることです。
製造や試験、検査などの過程で製品の状態や品質に関する情報を記録し、それを後から確認できるように管理します。
IATF 16949では、トレーサビリティが必要とされる場合、製品やサービスに一意の識別情報を付与し、その履歴を記録するための文書化された情報を保持することが求められます。
これにより、品質問題が発生した場合に、その原因を特定し、迅速に対応できる体制を確保します。
3. 主要要求事項
「8.5.2 識別及びトレーサビリティ」では、以下の内容が重要な要求事項として挙げられています。
3.1 適切な識別手段の使用
組織は、製品やサービスを識別するために、適切な手段を用いる必要があります。
これにより、製品が要求された品質基準を満たしているかどうかを追跡できるようにします。
識別手段には、以下のようなものがあります。
- バーコード、QRコード:製品にバーコードやQRコードを貼り付けることで、製品の情報に迅速にアクセスできます。
- RFID(無線識別)タグ:RFIDタグを使用して、製品の状態や位置をリアルタイムで追跡することができます。
- ロット番号、シリアル番号:製品にロット番号やシリアル番号を付与することで、製品の製造履歴を管理しやすくします。
これらの手段を用いることで、製品の状態を常に明確に識別し、品質管理を行うことができます。
3.2 製造過程での状態識別
製品は製造過程の各ステージを通過する際に、その状態(検査合格、不合格、修正中など)を識別することが求められます。
この状態識別により、製造過程で問題が発生した場合、その原因を迅速に特定できるようになります。
- 工程ごとの状態管理:製造工程で製品が合格しているか、不合格であるか、または修正が必要かを明確に示すことで、次の工程に進むべきかどうかを判断します。
- 不良品の隔離と対応:不良品が発生した場合、それを適切に隔離し、その後の処理方法や修正方法を記録します。これにより、品質問題が拡大するのを防ぎ、迅速な対応が可能になります。
3.3 トレーサビリティの確保
トレーサビリティを確保するために、組織は製品に一意の識別情報(シリアル番号、ロット番号など)を付与し、その履歴を追跡できるようにします。
トレーサビリティは、特に不具合が発生した場合にその原因を特定し、迅速な対応を行うために不可欠です。
- 製造履歴の管理:製品が製造過程を経る中での各工程や使用部品、試験結果などの情報を記録し、必要なときに参照できるようにします。
- 文書化された情報の保管:製品のトレーサビリティに関するすべての記録(試験結果、製造履歴、品質管理記録など)を適切に保管し、必要に応じて容易にアクセスできるようにします。これにより、不良品の原因が特定されるとともに、リコールや改善策の実施が迅速に行えます。
3.4 状態識別の代替手段
IATF 16949では、製品の状態が「本質的に明確」である場合には、代替手段を使用することも認められています。
たとえば、自動化された製造搬送工程中の材料や部品は、その状態が自動的に識別されるため、従来の手段を使わずとも十分に識別が可能です。
このような場合、製品の位置やフローの記録を用いて、代替手段で状態を確認し、目的を達成することができます。
4. トレーサビリティの実施例
自動車業界では、部品のトレーサビリティが非常に重要です。
たとえば、エンジンや車両の製造において、使用された部品に関する情報はすべてトレーサビリティシステムに記録され、製造履歴が管理されます。
万が一、品質不良や故障が発生した場合、その部品がどの車両に使用されたのかを迅速に特定し、対応を行うことができます。
また、車両の各部品にはシリアル番号やロット番号が付与され、部品の製造日、製造場所、試験結果などの情報がシステムに記録されます。
これにより、部品の不具合が発生した場合に、どの製品にどの部品が使われたかをすぐに追跡でき、リコールや修正作業を迅速に実施できます。
5. まとめ
IATF 16949「8.5.2 識別及びトレーサビリティ」の要求事項は、製品の適合性を確保するために、製品やサービスの識別とそのトレーサビリティを適切に管理することを求めています。
製造過程における製品の識別、状態管理、履歴追跡を徹底することで、品質問題が発生した際にその原因を迅速に特定し、対応できる体制を構築することが可能となります。
トレーサビリティシステムの効果的な運用により、企業は品質向上に貢献できるとともに、顧客満足度を高め、リコール対応や品質改善のスピードを加速させることができます。