1. はじめに
品質マネジメントシステムを効果的に機能させるためには、適切な文書化された情報が不可欠です。
「7.5.1 一般」では、この文書化に関する基本的な要求事項が示されています。
この記事では、「7.5.1 一般」の要求事項を詳細に解説し、文書化された情報の重要性、実施方法、組織がどのように文書管理を行うべきかについて具体的に説明します。
2. 要求事項の概要
「7.5.1 一般」では、組織の品質マネジメントシステムが満たすべき文書化された情報に関する基本的な要求事項を定めています。
この要求事項は、品質マネジメントシステムを効果的に運用し、改善していくために必要な文書化された情報を管理するための枠組みを提供します。
2.1 文書化された情報の要素
具体的には、組織の品質マネジメントシステムには以下の2つの重要な種類の文書化された情報が含まれなければならないとされています。
(a) この規格が要求する文書化した情報
規格が定める要求事項に従い、組織は特定の文書化された情報を保持する必要があります。
例えば、品質マニュアル、手順書、作業指示書、記録などがこれに該当します。
これらの文書化された情報は、規格に準拠していることを証明するために必須であり、パフォーマンス評価や監査の際にも重要な役割を果たします。
(b) 品質マネジメントシステムの有効性に必要な文書化した情報
これには、組織が自らの品質マネジメントシステムの運用や改善に必要だと判断した情報が含まれます。
たとえば、プロセスフロー図、改善活動の記録、リスクマネジメントの文書、パフォーマンス評価のデータなどです。
これらは規格に明記された要求事項ではないものの、組織が自らの品質マネジメントシステムの効果的な運用や継続的改善に必要だと判断する情報です。
2.2 文書化された情報の重要性
文書化された情報は、組織の品質マネジメントシステムを効果的に運用するために非常に重要です。 次の理由からも、その重要性が際立っています。
- 一貫性の確保:文書化された情報は、業務を遂行するための標準や指針となり、全ての関係者が同じ理解を持つことができます。これにより、業務が一貫して実行され、製品やサービスの品質が一定水準で保たれます。
- トレーサビリティの確保:文書化された情報は、活動や決定の履歴を明確に記録することができます。これにより、問題が発生した際にその原因を追跡し、改善策を講じるための根拠として利用できます。
- 規制遵守の証拠:ISO 9001や顧客要求事項に対する遵守状況を示すために、文書化された情報は証拠となります。これにより、監査や外部評価で組織の適合性を示すことができます。
3. 文書化された情報の範囲と管理
3.1 文書化された情報の範囲
文書化された情報の範囲は、組織の規模や業務内容によって異なります。
例えば、小規模な企業と大規模な企業では、必要な文書化された情報の量や管理の方法が異なります。
しかし、全ての組織に共通して求められるのは、品質マネジメントシステムを効果的に運用するために必要な情報が適切に文書化されていることです。
文書化された情報の範囲の決定要因(一例)
- 組織の規模 大規模な組織では、多くのプロセスや部門が関与するため、より多くの文書化された情報が必要となります。逆に、小規模な組織では、文書化された情報の量は少なくても問題ない場合がありますが、それでも品質マネジメントシステムの有効性を保つためには一定の文書化が求められます。
- プロセスとその相互作用の複雑さ 同じ製造業でも、品質管理のプロセスの複雑さが大きく異なるため、必要な文書化された情報も異なります。プロセスや工程ごとに見合った、詳細な手順書や検査記録などが必要となります。
- 製品・サービスの種類 製品やサービスが多岐に渡る場合、それぞれに対して異なる文書化された情報が必要となることがあります。特に高リスクな製品や規制の多い製品では、詳細な文書化が求められることが一般的です。
- 人々の力量 組織内の従業員の力量も、文書化された情報の必要性に影響します。例えば、新入社員が多い場合や専門的な知識を必要とする業務を行う場合、詳細な手順書やガイドラインが必要となることがあります。
3.2 文書化された情報の管理
文書化された情報を管理することは、品質マネジメントシステムが効果的に機能するために不可欠です。
文書管理が不十分だと、情報が不適切に保存されたり、最新の情報が反映されないことがあり、結果として品質に影響を及ぼす可能性があります。
文書管理の基本的なポイントは以下の通りです。
1. 文書の作成と承認
文書は適切な担当者が作成し、その内容が正確であることを確認した上で、承認を得る必要があります。
特に品質に関連する文書(手順書、作業指示書、検査基準書など)は、正確性と最新性が求められます。
2. 文書の更新と改訂
変更があった場合には、文書を迅速に更新し、その変更点を関係者に通知する仕組みが必要です。
また、古いバージョンの文書が使用されないよう、管理を徹底することが重要です。
3. 文書の保存とアクセス管理
文書は適切な期間保存され、必要なときにすぐにアクセスできるようにしておく必要があります。
保存する場所やアクセス権限についても厳格に管理することで、情報漏洩や誤用を防ぐことができます。
4. 文書の廃棄
使用しなくなった文書については、適切に廃棄することが必要です。
廃棄作業は、文書が不正に利用されないよう慎重に行うことが求められます。
4. 組織内での文書化された情報の運用例
具体的な運用例として、以下のような文書化された情報を考えてみましょう。
4.1 品質マニュアル
品質マニュアルは、組織の品質マネジメントシステムの全体像を示す重要な文書です。
ここには、組織の構造や品質マネジメントシステムの運用方法について記載されています。
品質マニュアルは、全ての従業員が組織の品質方針を理解し、実行できるようにするための基盤となります。
4.2 作業指示書と手順書
これらの文書は、製造工程や業務の詳細な手順を記載したもので、現場で働く従業員が正しい方法で作業を行えるように支援します。
作業指示書や手順書は、品質の一貫性を確保するために不可欠な文書です。
4.3 品質記録
品質記録は、各プロセスや活動がどのように実行されたかを証明する文書です。
これには、検査結果やテストレポート、不良品の処理に関する記録などが含まれます。
品質記録は、品質改善活動や監査において重要な証拠として活用されます。
5. 結論
「7.5.1 一般」における文書化された情報の要求事項は、品質マネジメントシステムを確立し、その有効性を維持するために必要不可欠です。
文書化された情報は、組織が品質目標を達成し、継続的に改善するための基盤を提供します。
各組織は、自らの規模やプロセスに合わせて適切な文書化の方針を策定し、情報管理を徹底することが求められます。
6. 関連項番
以下、関連項番の要求事項解説もあわせてご活用ください。