1. はじめに
IATF 16949は、特に自動車産業における品質マネジメントシステムの標準であり、製品とサービスの品質を確保するために必要な詳細な要求事項を定めています。
その中でも、「7.1.5.3.2 外部試験所」のセクションは、組織が外部試験所を利用する際に守るべき基準について規定しています。
外部試験所とは、組織の内部にない独立した外部機関であり、検査、試験、校正などのサービスを提供する専門の施設です。
本記事では、「7.1.5.3.2 外部試験所」に関する要求事項を詳細に解説し、組織が外部試験所をどのように選定し、利用するべきかについて考察します。
2. 外部試験所の選定基準
「7.1.5.3.2」では、組織が利用する外部試験所が満たすべき基準が明確に規定されています。
外部試験所を選定する際には、次の要件を十分に理解し、それに基づいて適切な試験所を選ばなければなりません。
2.1 外部試験所の適用範囲
外部試験所が提供するサービスには、検査、試験、校正などがありますが、これらのサービスを実施する能力に関して、外部試験所は定められた適用範囲を持っていなければなりません。
適用範囲は、試験所がどのようなサービスを提供できるかを示すものであり、例えば「温度試験」「強度試験」「化学分析」などが適用範囲に含まれる場合があります。
組織は、外部試験所の提供するサービスが自社の品質管理のニーズに適合しているかどうかを、事前に評価する必要があります。
適用範囲を明確にすることで、試験所が対応できるサービス内容と自社の要求事項が一致しているかを確認することができます。
2.2 ISO/IEC 17025に基づく認定
外部試験所が満たすべき基本的な要件の一つが、ISO/IEC 17025またはそれに相当する基準に基づく認定です。
ISO/IEC 17025は、試験所が信頼できる試験結果を提供するための国際的な基準であり、認定を受けた試験所は、その試験や校正の精度が保証されているとみなされます。
この認定は、ILAC MRA(国際試験所認定フォーラム相互認証協定)加盟機関によって付与されるため、信頼性が高いとされています。
具体的には、外部試験所がILAC MRAの加盟機関によって認定され、ISO/IEC 17025の認証を取得していることが求められます。
この認定を受けた試験所は、その認定範囲内で提供する検査や試験、校正サービスに関して、品質が保証されていることが証明されています。
また、試験報告書や校正証明書には、認定機関のマークが含まれている必要があります。
2.3 試験所認定がない場合
ISO/IEC 17025に基づく認定試験所が利用できない場合、組織は他の方法で外部試験所の信頼性を確認する責任があります。
具体的には、専用装置や付帯装置に対して、またはトレース可能な国際標準証明書を持たないパラメータに関しては、認定試験所以外の試験所を利用せざるを得ない場合があります。
この場合、組織はその外部試験所が「7.1.5.3.1項 内部試験所」の要求事項を満たしていることを証拠として確認しなければなりません。
具体的には、試験所の設備や技術手順、要員の力量などが要求される基準に適合していることを評価し、その結果を文書化して保持する必要があります。
また、試験所が実施した試験や校正の結果についても、組織はその信頼性を確認し、必要に応じて証拠として記録を保持することが求められます。
3. 校正と測定装置の要求
IATF 16949では、測定機器や試験機器の校正に関しても詳細な規定があり、外部試験所の利用においても重要なポイントとなります。
例えば、セルフキャリブレーションや専用ソフトウェアによる測定装置のキャリブレーションは、校正の要求事項を満たしていないとされています。
このため、組織が外部試験所を利用する場合、トレーサビリティが確保された測定基準に基づいた校正を実施していることが求められます。
4. 外部試験所の運用とリスク管理
外部試験所を利用することには、いくつかのリスクが伴います。
特に、外部試験所が信頼性の高い試験を実施する能力がない場合、その結果が組織の品質管理に影響を与えることになります。
組織は、外部試験所を利用する際に、適切なリスク管理を行い、試験結果が正確で信頼性の高いものであることを確認しなければなりません。
例えば、試験所の評価や顧客の要求事項に対する適合性を確認することが、リスク軽減のために必要なステップです。
また、外部試験所の選定時には、契約書や合意書を交わし、必要な品質要求を明確にしておくことも重要です。
5. 結論
「7.1.5.3.2 外部試験所」の要求事項は、組織が外部試験所を選定し、利用する際に守るべき基本的な基準を提供しています。
これらの基準を満たす試験所を選定することで、組織は品質管理の信頼性を高め、顧客に対して高品質な製品を提供することができます。
外部試験所の選定においては、ISO/IEC 17025認定の有無や試験所の適用範囲の確認、顧客受け入れ証拠の提供など、さまざまな要素を総合的に評価することが重要です。
6. 関連項番
以下、関連項番の要求事項解説もあわせてご活用ください。
6.1 関連度:大(併読を推奨)
6.2 関連度:小
7. 内部監査での確認ポイントと質問例
7.1 内部監査での確認ポイント
外部試験所の選定と評価
- 使用している外部試験所がISO/IEC 17025(または同等)認定を受けているかを確認しているか
- 外部試験所の認定適用範囲が、組織の試験・検査・校正内容に適合しているか
- ISO/IEC 17025の認定がない場合、「7.1.5.3.1 内部試験所」と同等の基準で評価・記録しているか
- 外部試験所の認定証・試験証明書・校正証明書などに、認定マーク(例:ILAC MRA)が含まれているか
校正・測定結果の信頼性確保
- 測定機器の校正が、トレーサビリティのある基準に基づいて実施されているか
- 測定装置のセルフキャリブレーションやソフトウェアによる補正だけで校正と見なしていないか
- 外部試験所から得られた校正結果に基づき、適切な対応が取られているか
リスク管理と運用管理
- 外部試験所の変更・追加・更新時にリスク評価を実施しているか
- 顧客要求事項に基づいた試験所利用の合意書・契約書を締結しているか
- 試験・校正結果に不適合があった場合、適切な是正処置を講じた証拠があるか
7.2 内部監査での質問例
外部試験所の適格性確認に関する質問
- 現在利用している外部試験所は、どのような基準で選定しましたか?
- ISO/IEC 17025の認定を受けているか、どの機関の認証か教えてください。
- 認定の適用範囲が、当社の使用目的と一致しているか、どのように確認していますか?
- ISO認定がない試験所を使用する場合、どのような評価・検証を実施していますか?
測定装置の校正に関する質問
- 外部試験所から提供された校正証明書に、トレーサビリティや認定マークはありますか?
- 測定装置のセルフキャリブレーションについて、校正と区別して管理されていますか?
- 校正結果に不具合があった場合、どのような処置を取りますか?
運用とリスク管理に関する質問
- 外部試験所と交わしている契約書や合意書には、どのような品質要求事項を盛り込んでいますか?
- 外部試験所の変更や新規導入時にリスク評価を行っていますか?その記録はありますか?
- 顧客から指定された試験所以外を使用した場合、どのような対応をしていますか?