IATF 16949 10.2.3項:問題解決【要求事項解説】

1. はじめに

IATF 16949の「10.2.3 問題解決」セクションは、品質マネジメントシステム(QMS)を運営する上で非常に重要な部分です。

この要求事項は、製品やプロセスに関わる不具合や問題を効果的に解決し、その再発を防止するためのプロセスを文書化し、組織がそれを実行することを求めています。

問題解決は、単に問題をその場しのぎで処理するのではなく、根本的な原因を特定し、恒久的な是正処置を講じることを重視しています。

組織が適切な問題解決方法を実行することによって、品質の向上、顧客満足度の向上、さらには競争力を高めることができます。

本記事では、IATF 16949「10.2.3 問題解決」の要求事項に基づいて、問題解決のプロセスについて詳細に解説していきます。

 

2. 問題解決プロセスの文書化

問題解決のプロセスを文書化することは、組織の品質マネジメントシステムの中で非常に重要なステップです。

なぜなら、問題が発生した際に、組織全体で一貫した方法で問題に対処できるようにするためです。

このプロセスを文書化することで、問題解決の手順や役割分担が明確になり、チーム全体が迅速かつ効果的に問題を解決することが可能になります。

また、文書化されたプロセスは、教育・訓練の資料としても活用され、従業員の理解と実行を助けます。

最終的に、文書化された問題解決プロセスは、組織の継続的な改善活動にもつながり、品質の向上に寄与します。

a) 問題のタイプ及び規模に対する定められたアプローチ

IATF 16949は、組織が問題解決のためにさまざまなタイプや規模に応じたアプローチを採用することを求めています。

問題は一つ一つ異なり、その発生場所や影響範囲も異なります。

したがって、組織は次のように問題の種類に応じた適切な対応を準備しておく必要があります。

  • 新製品開発時の問題:新製品開発中に発生する問題は、設計段階や試作品テストで発生することが多いため、設計変更や再試験などが求められます。また、製造工程に移行する前に問題を解決し、リスクを最小限に抑えることが重要です。
  • 現行製造の問題:製造過程での不具合や品質問題が発生した場合、その影響を最小化するために、迅速な対応が必要です。製造ラインの改善や、作業員の再教育、設備のメンテナンスなどが対策として挙げられます。
  • 市場不具合:市場で発生した製品不具合は、リコールや顧客への通知を含む対応を必要とします。また、その原因を突き止め、類似の問題が他の製品に影響を与えないようにするための対応が求められます。
  • 監査所見:監査で発見された不具合や問題に対しては、是正処置を実施し、再発防止策を講じることが必要です。監査の結果として問題が明確になった場合、その問題の根本原因を特定し、対策を取ることが求められます。

b) 不適合なアウトプットの管理

不適合なアウトプットが発生した場合、そのまま放置することはできません。

問題が発生した時点で、組織は速やかに「封じ込め」や「暫定処置」を実施して、問題が拡大するのを防ぐ必要があります。

封じ込めとは、不適合な製品やプロセスがさらなる影響を及ぼさないようにするための一時的な措置です。

暫定処置は、問題を解決するための恒久的な対策が整うまでの間、事態を安定させるための措置を講じることです。

封じ込めや暫定処置を実施することにより、問題が拡大することを防ぎ、その後の是正処置や根本原因分析に集中できるようになります。

c) 根本原因分析と使用される方法論

問題解決の最も重要なステップの一つは「根本原因分析」です。

問題が発生した理由を深く掘り下げていくことによって、表面的な症状だけでなく、問題の根本的な原因を特定します。

根本原因分析にはさまざまな方法論が使用されますが、代表的なものとして以下が挙げられます。

  • 5 Whys(5つのなぜ):問題の原因を「なぜ?」を5回繰り返して問い続けることで、根本的な原因を明確にする方法です。
  • フィッシュボーンダイアグラム(因果関係図):問題の原因を視覚的に整理し、さまざまな要因(人、機械、方法、材料、環境など)を明確にするためのツールです。
  • FMEA(故障モード影響分析):予測される潜在的な問題や故障を分析し、その影響や原因を特定する手法です。

これらの方法を使用することで、問題の本質を明確にし、適切な是正措置を講じることが可能になります。

d) 類似のプロセス及び製品への影響を考慮すること

問題が発生した場合、その原因が特定され、是正処置が講じられたとしても、その問題が他のプロセスや製品に影響を与える可能性があります。

したがって、是正処置を実施する際には、他のプロセスや製品に対する影響も考慮する必要があります。

類似のプロセスや製品で同様の問題が発生しないように、対策を拡張し、システム全体に適用することが求められます。

e) 実施された是正処置の有効性検証

是正処置を実施した後は、その効果を検証することが不可欠です。

実施した対策が実際に問題を解決し、再発を防止するために有効であることを確認する必要があります。

検証方法としては、問題解決後に再度モニタリングを行ったり、関連データを収集して分析したりすることが含まれます。

f) 適切な文書化した情報のレビュー及び更新

問題解決の過程で得られた情報や分析結果は、関連する文書(PFMEAやコントロールプランなど)に反映させることが求められます。

これにより、将来的に同じ問題が発生した際には、過去の対応策を参照し、より迅速かつ効果的に対処できるようになります。

文書のレビューと更新は、継続的改善の一環として行うべきです。

 

3. 顧客固有の規定されたプロセスの遵守

顧客が特定の問題解決手法やツールを指定している場合、組織はそれに従う必要があります。

顧客が指定する方法で問題解決を行うことは、顧客満足を高め、顧客との信頼関係を強化するために非常に重要です。

 

4. 結論

IATF 16949「10.2.3 問題解決」は、製品やプロセスで発生する問題を効果的に解決し、再発を防止するための体系的な方法を提供しています。

組織がこの要求事項を遵守することで、品質マネジメントシステムを強化し、顧客満足度を向上させることができます。

また、問題解決の過程で得られるデータや情報は、組織の継続的な改善活動に活かされ、品質向上に繋がります。

問題解決を単なる修正で終わらせず、原因の分析と恒久的な改善策を実行することが、IATF 16949における品質向上の鍵となります。