1. はじめに
IATF16949規格は、自動車業界における品質管理のための重要な規格であり、製品の設計・開発プロセスに関する厳格な要求を定めています。
「8.3.2 設計・開発の計画」は、設計・開発プロセスの効果的な実施に向けた計画を立てる際に考慮すべき項目を示しています。
このプロセスの計画は、製品の品質と安全性、効率的なリソース管理、顧客の要求事項を満たすために重要です。
本記事では、「8.3.2 設計・開発の計画」の要求事項を詳細に解説し、それぞれの項目がどのように組織にとって重要であるか、設計・開発プロセスを効果的に計画・管理するためにどのような実務的なアプローチが必要かについて掘り下げます。
2. 要求事項の概要
「8.3.2 設計・開発の計画」は、設計・開発プロセスの開始から完了までを通じて、計画的に管理されるべきであるという要求事項です。
この要求事項は、設計・開発プロセスの各段階でどのような要素を考慮し、どのようにそれらを管理・統制するかを明確にすることを目的としています。
特に、自動車業界では製品の品質、安全性、性能、環境への影響、法規制など、多くの要素を考慮する必要があるため、計画段階での詳細な検討が求められます。
この要求事項は、製品の設計・開発の性質や規模に応じて、適切なレビュー、検証、リソース配分、責任・権限の定義、そして関係者間のインターフェース管理など、詳細な計画を立てることを強調しています。
3. 設計・開発の計画で考慮すべき項目
「8.3.2 設計・開発の計画」では、以下の要素を考慮して計画を策定することが求められています。
それぞれの要素がどのように設計・開発のプロセスに影響を与えるのかを見ていきましょう。
(a) 設計・開発活動の性質、期間及び複雑さ
設計・開発プロセスは製品やサービスの性質に応じて異なり、その複雑さや期間もさまざまです。
たとえば、新しい製品の設計と既存製品の改善では、アプローチが異なります。新しい製品の開発では、新たな技術や材料、製造プロセスが必要となり、複雑さも増します。
一方、既存製品の改善は、より迅速に進めることができるかもしれませんが、それでも依然として一定の検討や確認が必要です。
設計・開発活動が複雑であれば、それに見合ったリソースの投入や計画の緻密さが求められます。
プロジェクトのスケジュールも、予測されるリスクや課題に対応できるように十分な余裕をもって設計する必要があります。
(b) 要求されるプロセス段階とレビュー
設計・開発プロセスには複数の段階があり、それぞれで評価やレビューを実施することが必要です。
これには、概念設計、詳細設計、試作、評価、検証、そして最終的な製品の量産への移行が含まれます。
IATF16949では、各段階で適切な設計レビューを行うことが要求されます。
設計レビューは、設計が顧客の要求を満たしているか、リスクが適切に管理されているか、品質が確保されているかを確認するための重要な手続きです。
このプロセスがしっかりと計画されていないと、後々重大な問題が発生する可能性があります。
(c) 設計・開発の検証及び妥当性確認活動
設計・開発プロセスにおいて、製品が要求される品質や性能を満たしていることを確認するために検証と妥当性確認が必要です。
検証は、設計が意図通りに機能するかを確認する作業であり、
妥当性確認は、実際に製品が顧客の要求に適合していることを確認する作業です。
これらの活動は、製品開発の各段階で計画的に行われるべきであり、何を検証・確認するのか、どのような手法で行うのか、そしてどのタイミングで行うのかを事前に計画しておく必要があります。
(d) 設計・開発プロセスに関する責任及び権限
設計・開発の各段階では、明確な責任分担と権限の定義が必要です。
誰がどの作業を担当し、誰が最終的な決定を行うのかをはっきりさせておくことで、プロセスの混乱を防ぎ、効率的に作業を進めることができます。
特に、設計変更が発生した場合や問題が発生した場合に迅速に対応できる体制が必要です。
責任と権限を適切に割り当てることで、問題解決のスピードが上がり、品質が保証されます。
(e) 内部資源及び外部資源の必要性
設計・開発プロセスには、内部資源だけでなく外部資源も必要となる場合があります。
たとえば、特殊な試験機器や外部の技術専門家が必要な場合、または外部組織と連携しなければならない場合があります。
そのため、必要な資源(人材、設備、技術)を事前に明確にし、それを計画的に調達することが求められます。外部リソースが関与する場合、適切な管理と調整が重要です。
(f) 人々のインターフェースの管理
設計・開発プロセスには多くの部門や関係者が関与します。
例えば、設計部門、製造部門、品質保証部門、そしてサプライヤーなど、異なる部門間でのインターフェースが発生します。
このインターフェースを適切に管理し、情報の伝達ミスや誤解を防ぐことがプロセスの円滑化につながります。
設計・開発の計画段階で、各部門や関係者間での情報共有の方法やタイミングを決定し、適切なコミュニケーションを維持することが重要です。
(g) 顧客及びユーザの参画
自動車業界では、顧客の要求を正確に反映させることが非常に重要です。
設計・開発プロセスにおいて顧客やユーザーの参画を確保することは、製品が顧客の期待を満たすための重要な要素です。
顧客の参画方法としては、定期的なレビュー会議、サンプルの提出・フィードバック、顧客要求の確認作業などがあります。
顧客と密に連携を取りながら進めることで、顧客満足度の向上が図れます。
(h) 以降の製品及びサービスの提供に関する要求事項
設計・開発の段階で製品が要求される仕様を満たすことを確認するだけでなく、その後の生産や販売、サービスに関連する要求事項も考慮する必要があります。
特に、量産移行後に発生する品質問題を未然に防ぐために、量産プロセスと開発プロセスをしっかりと統合することが求められます。
(i) 顧客及びその他の密接に関連する利害関係者によって期待される、設計・開発プロセスの管理レベル
顧客やその他の利害関係者(サプライヤーや規制当局)が求める管理レベルを理解し、それに基づいたプロセス管理を行います。
品質基準やリスク管理を適切に行い、製品が要求通りであることを証明します。
(j) 設計・開発の要求事項を満たすことを実証するために必要な文書化した情報
設計・開発の計画段階で、どのような文書を作成し、どのように管理するかも重要です。
設計・開発の結果として、製品が設計要求を満たしていることを実証するための文書(設計図、テスト結果、検証レポート、承認書など)を整備することが求められます。
これらの文書は、内部監査や顧客監査、規格適合性の確認などに使用され、製品が設計要求を満たしている証拠となります。
4. 結論
「8.3.2 設計・開発の計画」は、設計・開発プロセスを適切に管理し、製品の品質や性能が顧客要求を満たすことを確保するための基盤となる重要な規定です。
このプロセスにおいては、設計の性質や複雑さ、必要なリソース、顧客の参画、そして検証・妥当性確認活動など、多くの要素をバランスよく計画することが求められます。
適切な計画と管理により、製品開発の各段階でのリスクを減らし、品質の向上や納期遵守を実現することができます。
IATF16949に基づく設計・開発計画の確立は、企業の競争力向上と顧客満足度向上に直結する重要な要素です。
5. 関連項番
以下、関連項番の要求事項解説もあわせてご活用ください。
5.1 関連度:大(併読を推奨)
5.2 関連度:小
6. 内部監査での確認ポイントと質問例
6.1 内部監査での確認ポイント
(1) 設計・開発計画の明確化と文書化
- 設計・開発活動の性質、期間、複雑さに応じた計画が立てられているか
- 計画が文書化され、関係者に共有されているか
- 計画内容に、各フェーズの実施内容・目的・進捗・完了条件などが明確に定義されているか
(2) 設計プロセス段階ごとの管理
- 設計・開発プロセスの各段階(コンセプト、試作、検証、量産など)において、レビュー・検証・妥当性確認が組み込まれているか
- それぞれの段階での評価基準や承認ルールが明確になっているか
- 各レビューの記録(議事録、指摘内容、対応状況など)が残されているか
(3) 責任と権限の割り当て
- 各設計フェーズにおいて、担当者の責任・権限が明確に定義されているか
- 設計変更や問題発生時の承認権限や意思決定体制が整っているか
(4) リソースの見積もりと管理
- 設計に必要な内部・外部リソース(人材、設備、外注、知識など)が適切に見積もられているか
- 外部リソースに対して、適切な管理体制が構築されているか
(5) インターフェースとコミュニケーション管理
- 設計に関与する複数部門(製造、品質、購買等)とのインターフェースが適切に管理されているか
- 情報共有の手順、タイミング、責任者が明示されているか
(6) 顧客及び関係者の要求反映
- 顧客や関連ステークホルダーの要求が設計・開発計画に取り込まれているか
- 顧客と定期的にレビュー・フィードバックの機会が設けられているか
(7) 妥当性確認と成果物の文書化
- 妥当性確認・検証の内容・方法・タイミングが明確に定義されているか
- 設計要求を満たしていることを証明するための記録(試験成績書、承認書、図面等)が整備されているか
6.2 内部監査での質問例
(1) 設計・開発計画に関して
- 設計・開発の計画はどのように立てられていますか?その際に考慮している要素は何ですか?
- 設計活動の期間や複雑さに応じて、どのような対応をとっていますか?
(2) 各段階でのレビュー体制
- 設計・開発の各段階で、どのようなレビューや検証を行っていますか?その頻度は?
- 設計レビューにおいて、どの部門が関与し、どのように合意を得ていますか?
(3) 責任・権限の明確化
- 設計・開発チームの中で、責任や権限はどのように定義されていますか?
- 設計変更が必要となった際の承認手順はどのようになっていますか?
(4) リソースに関して
- 設計・開発に必要な人材や設備、外部協力先はどのように計画し、管理していますか?
- 外部リソースを使用する場合、品質確保のためにどのような管理をしていますか?
(5) コミュニケーションとインターフェース管理
- 設計・開発に関係する部門間の情報共有はどのように行っていますか?会議や文書化の仕組みはありますか?
(6) 顧客の関与と反映
- 設計・開発の各段階で、顧客の要求やフィードバックはどのように取り入れていますか?
- 顧客とのコミュニケーション手段(レビュー会議・承認プロセスなど)はありますか?
(7) 妥当性確認と成果物管理
- 妥当性確認や検証はどのタイミングで、どのように行っていますか?
- 製品が設計要求を満たしていることを示す証拠書類にはどのようなものがありますか?