1. はじめに
「7.5.3.2.1 記録の保管」は、品質マネジメントシステム(QMS)の運用において、記録をどのように保管し、管理するかに関する重要な指針を提供しています。
この要求事項は、品質記録が法的、規制的、組織的、そして顧客の要求を満たし、適切に保管されることを保証することを目的としています。
品質マネジメントシステムを運営する企業にとって、記録の保管は単なる義務ではなく、品質向上のための重要な要素です。
本記事では、「7.5.3.2.1 記録の保管」について詳しく解説し、具体的な実践方法や効果的な記録管理のアプローチについて説明します。
2. 要求事項の概要
「7.5.3.2.1 記録の保管」では、品質管理システムにおける記録の保管方針を策定し、それを遵守することを求めています。
記録の保管には、法令や規制の要求を満たすとともに、組織の運営における実際的なニーズや顧客の要求にも適合させる必要があります。
具体的には、以下のポイントが強調されています。
- 記録保管方針の策定と文書化:組織は、記録の保管に関する方針を決定し、それを文書化して実施しなければなりません。
- 記録管理の遵守事項:記録は、法令、規制、組織、および顧客要求事項に適合しなければならない。
- 記録の保存期間:特定の記録は、製品が生産及びサービス要求事項に対して有効である期間に加え、さらに1年間保持しなければならない。例としては、生産部品承認、治工具の記録、製品設計や工程設計の記録、購買注文書、契約書等が挙げられます。
- 顧客または規制当局の要求:顧客や規制当局が特定の記録保持期間を規定している場合、それに従う必要があります。
この要求事項の目的は、製品の品質に関連する重要な記録が、適切な期間、適切な方法で保管され、必要なときにアクセスできる状態にすることです。
これにより、品質の証拠としての記録が適切に管理され、パフォーマンス評価や監査に対応できるようになります。
3. 記録保管の重要性とその影響
記録は、品質マネジメントシステムの証拠として重要な役割を果たします。
適切な記録の管理と保管は、以下のような多くの利点をもたらします。
3.1 品質改善の証拠となる
記録は、品質マネジメントシステムが効果的に運用されていることを証明する証拠となります。
例えば、工程設計や製品設計の記録は、その設計が顧客要求に適合しているかどうかを示す資料として機能します。
また、記録は、品質管理プロセスが計画どおりに実施され、問題が発生した際にどのように対処されたかを追跡するための重要な手段となります。
3.2 法的および規制要件への対応
多くの産業分野では、品質記録の保持が法的に義務付けられています。
特に自動車産業においては、製品に関連する重要な記録が規制要件に適合する形で保存されていなければならない場合があります。
たとえば、安全性に関連する試験記録や製造記録は、法律や規制機関の監査を受ける際に重要な証拠となります。
3.3 顧客要求への対応
顧客によっては、特定の記録を要求することがあります。
生産部品承認や工程設計に関する記録などは、顧客に対して製品の適合性を証明するために必要です。
顧客が求める記録を適切に保管し、必要に応じて提供できるようにすることは、顧客満足度の向上につながります。
3.4 内部監査や外部監査への対応
記録は、内部監査や外部監査の際に重要な役割を果たします。
監査では、実際に行われた活動が文書化された記録によって確認されます。
例えば、購買注文書や契約書が適切に保管されていれば、それらが製品の仕様や納期に関連する要求事項を満たしていることを証明できます。
4. 記録保管方針の策定と実施
「7.5.3.2.1 記録の保管」に対応するためには、まず組織内で記録保管方針を策定する必要があります。
この方針は、記録の種類、保管方法、保管期間、アクセス権限、廃棄手順などを定めるものであり、組織全体で統一された管理を行うための基本的な枠組みとなります。
4.1 記録保管方針の主要項目
記録保管方針には、以下の要素を含めると良いでしょう。
- 記録の分類と種類:どの記録を保管するのか、どの記録が法的、規制的、または顧客要求に基づいて保管されるべきかを定義します。
- 保管方法:記録が物理的な形式(紙)または電子的な形式(デジタル)で保管される場合、どのように保存されるのかを決定します。例えば、物理的な記録はファイルキャビネットや保管庫で管理し、電子的な記録はセキュアなサーバーやクラウドストレージで管理する方法が考えられます。
- 保管期間:記録がどのくらいの期間保持されるべきかを定めます。IATF16949では、生産部品承認や工程設計記録については、製品が有効である期間に加えて1暦年保管することが求められていますが、顧客や規制当局の要求に従う場合もあります。
- アクセス権限:誰が記録にアクセスできるか、どのようにして記録を提供するかを管理します。記録へのアクセスは、責任者や特定の職務に基づいて制限されるべきです。
- 廃棄方法:記録が不要になった場合、適切な方法で廃棄するための手順を定めます。特に機密性の高い記録については、シュレッダー処理やデータ削除など、情報漏洩を防ぐための適切な措置が必要です。
4.2 記録管理の実施方法
記録保管方針を策定した後は、それを実際に運用し、組織内で適切に実施するための方法を整えます。
実施方法には、以下のような手段が考えられます。
- 電子文書管理システムの導入:デジタル記録を管理するために電子文書管理システムを導入することで、記録の検索、追跡、アクセス制御、バージョン管理が効率的に行えます。
- 物理的な記録管理:紙媒体の記録に関しては、ファイルキャビネットや専用の保管庫を使用し、整理整頓を行います。また、記録の保護には鍵のかかるキャビネットやセキュリティ対策が必要です。
- 定期的なレビューと監査:記録保管方針の適切な実施状況を定期的にレビューし、監査を行うことが推奨されます。これにより、記録の管理が適切に行われているか、保管期間や廃棄方法が遵守されているかを確認することができます。
5. 結論
「7.5.3.2.1 記録の保管」は、品質マネジメントシステムの運用における重要な要素です。
記録の適切な管理は、法的・規制的な要件を満たすだけでなく、顧客要求への対応、品質の証明、さらには内部監査や外部監査に対応するためにも欠かせません。
記録保管方針を明確にし、それを組織内で効果的に実施することが、IATF16949の遵守と品質向上に向けた鍵となります。
6. 関連項番
以下、関連項番の要求事項解説もあわせてご活用ください。
6.1 関連度:大(併読を推奨)
6.2 関連度:小
7. 内部監査での確認ポイントと質問例
7.1 内部監査での確認ポイント
(1) 記録保管方針の有無と適用
- 記録の保管に関する方針・手順が文書化されているか
- 方針内容が法規制・顧客要求・自社要求を網羅しているか
- 現場で方針が実際に運用されているか(記録管理の実行状況)
(2) 保管期間とその管理
- 記録の保管期間が明確に定められているか
- 保管期間が、顧客要求や規制要件に準拠しているか
- 記録ごとに保管期限を把握・管理している仕組みがあるか(一覧表など)
(3) 保管方法とアクセス管理
- 紙・電子いずれの場合も、記録が安全かつ容易にアクセスできるよう管理されているか
- 機密性・完全性・可用性が保たれているか(鍵付きキャビネット、アクセス制限、データ保全など)
- 誰がどの記録にアクセスできるかが明確化されているか
(4) 廃棄のルールと実施
- 保管期間満了後の記録は、適切に廃棄されているか
- 廃棄方法が定められており、情報漏洩対策が講じられているか(シュレッダー、完全データ削除など)
- 廃棄履歴の管理が行われているか(廃棄日、担当者、対象記録などの記録)
(5) 特定記録(設計・購買・承認記録等)の管理状況
- 生産部品承認、治工具、製品設計・工程設計、購買契約等、特に重要な記録が管理されているか
- これらの記録が、所定の保管期間を満たす形で保管されているか
- 顧客要求により追加で求められる記録が識別され、適切に対応されているか
8.2 内部監査での質問例
(1) 方針と管理体制
- 記録の保管に関する社内ルールはどのように定めていますか?
- そのルールは誰が作成・承認し、誰が運用を監督していますか?
- 法令や顧客要求に関して、記録保管の基準はどのように確認・反映していますか?
(2) 保管期間
- この記録は、いつまで保管する必要がありますか? その根拠は何ですか?
- 記録の保管期間はどこで確認できますか? 一覧や管理票はありますか?
- 保管期限が過ぎた記録は、どのように管理・処理されていますか?
(3) 保管方法・アクセス
- 紙と電子の記録はどのように保管されていますか?
- これらの記録は、誰が、どのようにアクセス・使用できるようになっていますか?
- 事故や災害によって記録が失われないよう、どのような対策を講じていますか?(バックアップなど)
(4) 廃棄管理
- 記録を廃棄する際の手順について教えてください
- 機密文書や顧客関連記録は、どのような方法で廃棄していますか?
- 廃棄した記録について、いつ・誰が・どのように処理したかを記録していますか?
(5) 特定記録
- 生産部品承認や工程設計など、重要な記録はどのように管理していますか?
- 顧客から保管を求められている記録には、どのようなものがありますか? その管理状況を見せてください