目次
はじめに
IATF16949「7.5.3.2.1 記録の保管」は、品質マネジメントシステム(QMS)の運用において、記録をどのように保管し、管理するかに関する重要な指針を提供しています。
この要求事項は、品質記録が法的、規制的、組織的、そして顧客の要求を満たし、適切に保管されることを保証することを目的としています。
品質マネジメントシステムを運営する企業にとって、記録の保管は単なる義務ではなく、品質向上のための重要な要素です。
本記事では、「7.5.3.2.1 記録の保管」について詳しく解説し、具体的な実践方法や効果的な記録管理のアプローチについて説明します。
1. IATF16949「7.5.3.2.1 記録の保管」の概要
IATF16949の「7.5.3.2.1 記録の保管」では、品質管理システムにおける記録の保管方針を策定し、それを遵守することを求めています。
記録の保管には、法令や規制の要求を満たすとともに、組織の運営における実際的なニーズや顧客の要求にも適合させる必要があります。
具体的には、以下のポイントが強調されています:
- 記録保管方針の策定と文書化:組織は、記録の保管に関する方針を決定し、それを文書化して実施しなければなりません。
- 記録管理の遵守事項:記録は、法令、規制、組織、および顧客要求事項に適合しなければならない。
- 記録の保存期間:特定の記録は、製品が生産及びサービス要求事項に対して有効である期間に加え、さらに1年間保持しなければならない。例としては、生産部品承認、治工具の記録、製品設計や工程設計の記録、購買注文書、契約書等が挙げられます。
- 顧客または規制当局の要求:顧客や規制当局が特定の記録保持期間を規定している場合、それに従う必要があります。
この要求事項の目的は、製品の品質に関連する重要な記録が、適切な期間、適切な方法で保管され、必要なときにアクセスできる状態にすることです。
これにより、品質の証拠としての記録が適切に管理され、監査や評価に対応できるようになります。
2. 記録保管の重要性とその影響
記録は、品質マネジメントシステムの証拠として重要な役割を果たします。
適切な記録の管理と保管は、以下のような多くの利点をもたらします。
2.1 品質改善の証拠となる
記録は、品質マネジメントシステムが効果的に運用されていることを証明する証拠となります。
例えば、工程設計や製品設計の記録は、その設計が顧客要求に適合しているかどうかを示す資料として機能します。
また、記録は、品質管理プロセスが計画どおりに実施され、問題が発生した際にどのように対処されたかを追跡するための重要な手段となります。
2.2 法的および規制要件への対応
多くの産業分野では、品質記録の保持が法的に義務付けられています。
特に自動車産業においては、IATF16949が求めるように、製品に関連する重要な記録が規制要件に適合する形で保存されていなければならない場合があります。
たとえば、安全性に関連する試験記録や製造記録は、法律や規制機関の監査を受ける際に重要な証拠となります。
2.3 顧客要求への対応
顧客によっては、特定の記録を要求することがあります。
生産部品承認や工程設計に関する記録などは、顧客に対して製品の適合性を証明するために必要です。
顧客が求める記録を適切に保管し、必要に応じて提供できるようにすることは、顧客満足度の向上につながります。
2.4 内部監査や外部監査への対応
記録は、内部監査や外部監査の際に重要な役割を果たします。
監査では、実際に行われた活動が文書化された記録によって確認されます。
例えば、購買注文書や契約書が適切に保管されていれば、それらが製品の仕様や納期に関連する要求事項を満たしていることを証明できます。
3. 記録保管方針の策定と実施
IATF16949「7.5.3.2.1 記録の保管」に対応するためには、まず組織内で記録保管方針を策定する必要があります。
この方針は、記録の種類、保管方法、保管期間、アクセス権限、廃棄手順などを定めるものであり、組織全体で統一された管理を行うための基本的な枠組みとなります。
3.1 記録保管方針の主要項目
記録保管方針には、以下の要素が含まれるべきです:
- 記録の分類と種類:どの記録を保管するのか、どの記録が法的、規制的、または顧客要求に基づいて保管されるべきかを定義します。
- 保管方法:記録が物理的な形式(紙)または電子的な形式(デジタル)で保管される場合、どのように保存されるのかを決定します。例えば、物理的な記録はファイルキャビネットや保管庫で管理し、電子的な記録はセキュアなサーバーやクラウドストレージで管理する方法が考えられます。
- 保管期間:記録がどのくらいの期間保持されるべきかを定めます。IATF16949では、生産部品承認や工程設計記録については、製品が有効である期間に加えて1暦年保管することが求められていますが、顧客や規制当局の要求に従う場合もあります。
- アクセス権限:誰が記録にアクセスできるか、どのようにして記録を提供するかを管理します。記録へのアクセスは、責任者や特定の職務に基づいて制限されるべきです。
- 廃棄方法:記録が不要になった場合、適切な方法で廃棄するための手順を定めます。特に機密性の高い記録については、シュレッダー処理やデータ削除など、情報漏洩を防ぐための適切な措置が必要です。
3.2 記録管理の実施方法
記録保管方針を策定した後は、それを実際に運用し、組織内で適切に実施するための方法を整えます。
実施方法には、以下のような手段があります:
- 電子文書管理システム(DMS)の導入:多くの組織では、デジタル記録を管理するために電子文書管理システム(DMS)を導入しています。これにより、記録の検索、追跡、アクセス制御、バージョン管理が効率的に行えます。
- 物理的な記録管理:紙媒体の記録に関しては、ファイルキャビネットや専用の保管庫を使用し、整理整頓を行います。また、記録の保護には鍵のかかるキャビネットやセキュリティ対策が必要です。
- 定期的なレビューと監査:記録保管方針の適切な実施状況を定期的にレビューし、監査を行うことが推奨されます。これにより、記録の管理が適切に行われているか、保管期間や廃棄方法が遵守されているかを確認することができます。
4. 結論
IATF16949「7.5.3.2.1 記録の保管」は、品質マネジメントシステムの運用における重要な要素です。
記録の適切な管理は、法的・規制的な要件を満たすだけでなく、顧客要求への対応、品質の証明、さらには内部監査や外部監査に対応するためにも欠かせません。
記録保管方針を明確にし、それを組織内で効果的に実施することが、IATF16949の遵守と品質向上に向けた鍵となります。