IATF 16949 8.4.1.2項:供給者選定プロセス【要求事項解説】

はじめに

自動車業界における品質管理は、製品の設計から製造、最終的な出荷に至るまでのすべての段階において非常に重要な役割を担っています。

IATF16949は、これらの工程を統一的に管理するための品質マネジメントシステム(QMS)として、特に供給者管理の重要性を強調しています。

「8.4.1.2 供給者選定プロセス」は、組織がどのように適切な供給者を選定し、その後の品質やパフォーマンスを監視するかを定めた要求事項です。

この記事では、IATF16949の「8.4.1.2 供給者選定プロセス」の要求事項をもとに、供給者選定の目的、選定プロセス、評価基準、さらに実際の適用方法について詳しく解説します。

 

1. 供給者選定プロセスの目的

供給者選定は、製品の品質、コスト、納期、安定供給を確保するために、組織が取るべき最初のステップです。

適切な供給者を選定することで、製品の品質向上やコスト削減、さらには納期の遵守など、組織全体の競争力を高めることができます。

自動車業界では、品質管理が厳格であり、顧客の要求に応えるためには、信頼できる供給者と長期的に協力することが欠かせません。

IATF16949は、供給者の選定にあたり、品質マネジメントシステム(QMS)の評価やリスク評価を行うことを求めています。

選定プロセスが不十分であれば、最終的に製品の品質や納期に悪影響を及ぼす可能性があります。

したがって、供給者選定プロセスは非常に重要であり、組織の製品品質と顧客満足度を直接的に左右します。

 

2. 供給者選定プロセスの要素

IATF16949の「8.4.1.2 供給者選定プロセス」では、供給者選定の際に必須となる要素がいくつか挙げられています。

これらの要素を理解し、適切に実施することが成功への鍵となります。

a) 製品適合性及び顧客に対する製品の途切れない供給に対するリスクの評価

供給者選定の最初のステップは、供給者が提供する製品が、組織の品質要求に適合しているかどうかを評価することです。

製品の品質が顧客の要求に満たなければ、製品不良が発生し、最終的に顧客満足度が低下する原因となります。

また、供給者が途切れなく製品を供給できる能力があるかどうかも、選定時に重要な評価項目です。

特に、供給者が途中で供給を中断した場合、製品ラインに大きな影響を及ぼす可能性があるため、供給の安定性も確認しなければなりません。

リスク評価では、過去のパフォーマンスデータや供給者の対応力を確認し、供給の途切れを防ぐための対策を講じます。

b) 関連する品質及び納入パフォーマンス

供給者が提供する製品の品質だけでなく、その納入パフォーマンスも重要な評価要素です。

自動車産業では納期遵守が厳しく求められ、遅れが生じると製品の組み立てライン全体に影響を与えることになります。

納入パフォーマンスには、供給者の納期遵守率や過去の納入実績を基に評価します。

品質パフォーマンスについては、供給者がどれだけ安定して製品を納入しているか、品質不良の発生頻度、トレーサビリティが確保されているかなどを確認します。

供給者選定時には、これらのパフォーマンス指標をしっかりと確認し、品質基準に適合しているかをチェックすることが重要です。

c) 供給者の品質マネジメントシステム(QMS)の評価

供給者の品質マネジメントシステムがISO 9001やIATF16949に準拠しているかを確認することも、供給者選定の重要な要素です。

品質マネジメントシステムが適切であれば、供給者は製品の品質を一貫して保証でき、品質改善活動や問題発生時の対応がスムーズに行えることが期待されます。

供給者のQMSを評価する際には、供給者が実施している内部監査や外部監査の結果、改善活動の実績などをチェックします。

さらに、品質マネジメントシステムの継続的な改善が行われているかも確認するポイントとなります。

d) 部門横断的意思決定

供給者選定は、単一の部門が行うものではなく、購買部門、製造部門、品質管理部門など、複数の部門が協力して行うべきです。

部門横断的な意思決定を行うことで、製品の品質や供給の安定性、コスト面などさまざまな視点を反映させることができます。

例えば、製造部門が提供する製品の加工性や設備との相性を確認し、品質管理部門が品質基準を満たしているかを評価することで、選定基準を包括的に満たす供給者を選定することができます。

e) ソフトウェア開発能力の評価(該当する場合)

近年、車両に組み込まれるソフトウェアの重要性が増しており、供給者がソフトウェア開発を担当する場合には、ソフトウェア開発能力の評価も必須です。

ソフトウェア開発には、高度な技術と品質管理が求められます。

したがって、供給者がどのような開発プロセスを有しているのか、開発したソフトウェアのテストやバージョン管理がどのように行われているのかを確認する必要があります。

 

3. 供給者選定基準の拡張要素

IATF16949は、供給者選定において考慮すべきその他の基準として以下を推奨しています。

自動車事業の規模(絶対値及び事業全体における割合)

供給者の規模が組織の事業規模に適合しているかを確認します。

供給者の規模や供給能力が、組織の需要に対応できるかどうかは重要な選定基準となります。

財務的安定性

供給者が安定した財務状況を有しているかを評価します。

財務的な安定性は、長期的な取引関係において重要であり、供給の中断リスクを減らします。

購入される製品、材料、またはサービスの複雑さ

供給者が提供する製品やサービスがどれほど複雑であるかを考慮します。

複雑な製品や材料の提供には高度な技術やプロセスが求められるため、供給者がその複雑さに対応できるかを評価します。

必要な技術(製品またはプロセス)

製品やプロセスに必要な特定の技術的な能力が供給者にあるかを確認します。

新技術の導入や特殊な製造プロセスが必要な場合、その技術力が供給者に備わっていることが選定基準になります。

利用可能な資源(例:人材、インフラストラクチャ)の適切性

供給者が必要な人的リソースや設備、インフラを適切に持っているかを評価します。

適切な資源を持つ供給者は、スムーズな生産と安定した供給が期待できます。

設計・開発の能力(プロジェクトマネジメントを含む)

供給者が設計・開発段階で必要な技術力やプロジェクトマネジメント能力を持っているかを確認します。

特に新製品の開発やカスタマイズが必要な場合、供給者の設計能力が重要です。

製造の能力

供給者が必要な生産量を効率的に製造できる能力を持っているかを評価します。

大規模生産の能力や品質管理の実施状況などが評価基準になります。

変更管理プロセス

供給者が変更管理プロセスを確立し、変更に対応できる体制が整っているかを確認します。

製品やプロセスに変更が発生した場合、それをスムーズに管理し、影響を最小限に抑える能力が求められます。

事業継続計画(例:災害への準備、緊急事態対応計画)

供給者が災害や緊急事態に対して事業継続計画(BCP)を持っているかを確認します。

予期しない事態においても供給者が生産や供給を継続できるかどうかが重要です。

物流プロセス

供給者が安定した物流プロセスを持ち、納期通りに製品を届ける能力があるかを評価します。

物流の効率性や信頼性も供給者選定において重要な要素です。

顧客サービス

供給者が顧客サービスを適切に提供できるかを評価します。

製品に対するサポートや、問題発生時の対応能力など、顧客満足度を向上させる要因として、顧客サービスの質は重要です。

 

4. 結論

供給者選定プロセスは、IATF16949において極めて重要な要求事項です。

選定プロセスを適切に設計し実施することによって、組織は安定した品質を維持し、納期やコストの面で優位性を保つことができます。

また、供給者の選定においては、製品適合性だけでなく、品質パフォーマンスやリスク評価、財務的安定性など、多岐にわたる要素を総合的に評価することが求められます。

供給者選定基準を適切に策定し、選定後のモニタリングを強化することで、信頼できる供給者と長期的なパートナーシップを築くことが可能となります。