IATF 16949 8.7.1.1項:特別採用に対する顧客の正式許可【要求事項解説】

1. はじめに

IATF16949規格の「8.7.1.1 特別採用に対する顧客の正式許可」は、自動車産業における品質管理を確保するために、非常に重要な要素を占めています。

特に、製品や製造工程に対して通常の承認基準から逸脱する場合、顧客からの「特別採用」または「逸脱許可」を取得することが求められています。

この要求事項は、製品やサービスの品質を確保し、顧客満足度を維持するために必要不可欠な手段となります。

本記事では、IATF16949「8.7.1.1」の要求事項に基づいて、特別採用が求められる状況やその手順、そして実際の運用方法について詳しく解説していきます。

 

2. 特別採用とは

2.1 特別採用の定義

「特別採用」とは、製品や製造工程が通常の承認基準に満たない場合に、その逸脱を顧客が認めることを指します。

このような場合、製品やプロセスが顧客の要求事項や仕様から外れるため、顧客の承認を得て進める必要があります。

特別採用は、通常の品質基準から外れるが、一定の条件下でそのまま使用することを許可される場合に使用されるプロセスです。

たとえば、ある部品が設計上の公差にわずかな逸脱を示す場合、この部品を「特別採用」として顧客の承認を得ることで、製品ラインに使用し続けることが可能になります。

このように、特別採用は一時的な対応として使用されることが多いです。

2.2 特別採用と逸脱許可の違い

「特別採用」と「逸脱許可」は似た概念ですが、異なる点もあります。

  • 特別採用:製品や部品、または製造工程において、顧客の仕様や基準に満たない部分があっても、そのまま使用するために顧客から正式に承認を得ることを指します。特別採用は、通常の承認プロセスに従わず、特別な許可を得て製品を使用することが許可される状態です。
  • 逸脱許可:逸脱許可は、特定の工程や仕様に対して、逸脱が許可された場合に適用されます。逸脱許可は特別採用よりももっと技術的な背景や、継続的な改善を目的として使用されることが多いです。

どちらの場合も、最も重要なのは顧客からの正式な承認を受けることです。

これにより、顧客に対して不適合品や基準外の製品が提供されるリスクを減少させ、品質の信頼性を保つことができます。

 

3. IATF16949「8.7.1.1」の要求事項

IATF16949規格における「8.7.1.1 特別採用に対する顧客の正式許可」では、製品や製造工程が現行の承認基準と異なる場合に、顧客からの「特別採用」または「逸脱許可」を得ることが求められています。

これにはいくつかの重要な要素が含まれています。

3.1 顧客の承認の取得

製品や製造工程が現在承認されている仕様や基準と異なる場合、組織は顧客からの正式な承認を取得する必要があります。

これは、製品が顧客の要求に適合しない可能性がある場合に、製品の引き渡し前に必ず行わなければならない処置です。

不適合が発生した場合、そのまま製品を出荷することはできません。

顧客が不適合を受け入れるかどうかを判断するために、顧客からの「特別採用」の正式な許可が必要となります。

この許可がなければ、不適合品の出荷や使用はできません。

3.2 不適合製品の「現状での使用」と修理について

不適合が発生した場合、その製品が「現状で使用可能」かどうか、また修理可能かどうかを評価することが求められます。

この場合、修理を行う前に、顧客の正式な許可を得なければなりません。

たとえば、部品が設計公差から逸脱している場合、そのまま使用するか、修理して仕様に適合させるかを顧客と協議し、許可を得る必要があります。

このプロセスは、製品の品質と安全性を保つために重要です。

3.3 再使用部品への対応

製造工程で使用される部品が再利用される場合、その部品が「特別採用」または「逸脱許可」によって使用されることを顧客に明確に伝える必要があります。

再使用する部品が規定の基準に適合しない場合、それが顧客に明示されていなければ、後の問題につながる可能性があります。

再使用部品は、特別採用または逸脱許可を得て、明確に顧客に通知されるべきです。

この通知には、製品の状態やどのような修正が行われたかなど、詳細な情報を含める必要があります。

 

4. 特別採用の記録と管理

4.1 特別採用の記録の保持

特別採用によって正式に許可された製品や部品については、その許可の満了日や数量など、詳細な記録を保持することが求められます。

この記録は、将来的にその製品や部品が規定の仕様に戻った場合に役立つだけでなく、顧客とのやり取りにおいても重要な証拠となります。

これらの記録は、品質管理システムの一環として、規定された期間にわたり保持されるべきです。

特別採用が満了した場合、その後に再度新しい仕様や基準に適合することを確認する必要があります。

4.2 出荷容器への識別

特別採用によって出荷される製品は、各出荷容器に適切に識別される必要があります。

これにより、製品が特別採用によるものであることが容易に識別でき、誤って不適合品が出荷されるリスクを減少させることができます。

識別は、通常のラベリングやマーキングによって行われます。

出荷容器に「特別採用品」であることを示すラベルを貼ることで、現場での混乱を防ぎ、品質管理を強化することができます。

4.3 顧客からの要請に対する承認

組織は、特別採用や逸脱許可を顧客に提出する前に、必ず自社内で承認を得る必要があります。

この承認は、適切な品質管理プロセスを確保し、顧客に提出する前に製品の品質が適切に維持されていることを保証するためのものです。

 

5. 特別採用の運用と実践

特別採用の管理プロセスを効果的に運用するためには、いくつかのベストプラクティスがあります。

  1. 明確な手順の設定:特別採用を実施する場合、その手順を文書化し、関係者に周知徹底することが重要です。これにより、特別採用のプロセスが標準化され、適切な管理が行われます。
  2. 定期的なレビューと改善:特別採用が繰り返し使用される場合、その効果を定期的にレビューし、必要に応じて改善を行います。特別採用のプロセスが無駄なく、効率的に運用されることが求められます。
  3. 顧客との密なコミュニケーション:顧客からの特別採用許可を得るためには、継続的なコミュニケーションと信頼関係が重要です。顧客が納得できる理由や説明を行うことで、特別採用をスムーズに進めることができます。

 

6. 結論

IATF16949「8.7.1.1 特別採用に対する顧客の正式許可」は、製品や製造工程が規定の基準に適合しない場合でも、適切に管理され、顧客の許可を得て使用されることを保障します。

特別採用は、品質を保ちながら柔軟に対応するための重要なプロセスであり、正しい手続きと記録の保持が求められます。

企業は、このプロセスを徹底し、顧客満足度を維持しつつ、品質の一貫性を確保することが重要です。