IATF 16949 8.5.4項:保存【要求事項解説】

1. はじめに

IATF16949は、自動車業界における品質マネジメントシステムの国際規格であり、製品とサービスの品質を確保するための厳格な要求事項を定めています。

その中で「8.5.4 保存」は、製造およびサービス提供の過程で発生するアウトプットをどのように保存し、管理するかを規定する重要な項目です。

保存は、製品やサービスの品質を確保するためだけでなく、法規制や顧客要求に基づく必要な証拠を保持するためにも必要不可欠なプロセスです。

本記事では、IATF16949「8.5.4 保存」の要求事項について、その背景、重要性、具体的な実施方法を深く掘り下げて解説します。

 

2. 保存の目的と重要性

「保存」という言葉には、単に物理的な保管にとどまらず、アウトプット(製品、部品、サービス結果)を適切に管理・維持し、必要に応じて検証できるようにすることが含まれます。

この目的は大きく分けて以下の3つの観点から説明できます。

2.1 要求事項への適合を確実にする

IATF16949の規格に従う企業は、製造およびサービス提供において、顧客の要求や規制の要求事項に対して適合する必要があります。

製品がこれらの要求に適合することを証明するためには、適切に保存された証拠が必要です。

たとえば、製品試験結果、検査記録、製造データなどがその証拠にあたります。

2.2 リスクの軽減

保存されるアウトプットには、製造工程での試験結果や製品が不良でないことを示すデータが含まれます。

これらを適切に管理することにより、不良品の出荷やリコール、訴訟などのリスクを回避することができます。

保存された記録は、問題が発生した際の早期発見と迅速な対応を支援します。

2.3 顧客満足と信頼の向上

顧客が求める品質基準に適合する製品やサービスを提供するためには、全ての生産・サービス提供過程で得られたデータや記録を正確に保存し、必要に応じて適切に利用することが重要です。

顧客が不具合や問題を発見した際に、その証拠を迅速に提示できることは、企業の信頼性を高めることにも繋がります。

 

3. 保存の具体的な実施方法

「保存」に関する実施方法は、単に物理的に保管するだけではなく、保存された情報の可用性と整合性を維持するためにさまざまな管理手法を用いる必要があります。

このプロセスには以下の要素が含まれます。

3.1 識別

保存するアウトプットは、すべて適切に識別されるべきです。

識別は、後に情報を検索、参照、または追跡する際に非常に重要な役割を果たします。

識別方法は、製品番号、ロット番号、シリアル番号など、製品やサービスに特有の番号を付与することによって行われます。

  • 製品番号の付与: 各製品や部品に対して一意の番号を付け、必要な情報がすぐに特定できるようにします。
  • 文書化の管理: 保存する情報は、どの製品や工程で使用されたかを示すために、文書としても管理されるべきです。試験結果、品質記録、作業指示書などが含まれます。

3.2 取扱い

保存するアウトプットは、適切に取扱いされる必要があります。

これには、記録の取り扱い方法、アクセス権限、責任者の指定が含まれます。

  • 記録の取り扱い: 記録は、通常、電子フォーマットまたは紙のフォーマットで保存されます。どちらの形式を選んでも、記録が失われないように適切に取り扱うことが重要です。
  • アクセス制限: 保存された記録にアクセスできる権限を持つ人物を明確にし、不正アクセスを防止します。

3.3 汚染防止

保存中の製品や部品が汚染されることを防ぐための措置も重要です。

特に、電子機器や化学薬品など、外部の環境因子によって性能に影響を与えることがあるものについては、厳格な管理が求められます。

  • 清潔な保管環境: 保存場所は清潔で、汚染源から隔離される必要があります。湿気や温度、光の影響を受けやすい製品に関しては、環境条件を管理することが重要です。
  • 包装の適切な管理: 製品の包装も保存中に汚染されないようにするため、適切な素材や方法で包装されるべきです。

3.4 包装

製品や部品の保存には、適切な包装が欠かせません。包装の目的は、製品を保護し、外部からの汚染を防ぎ、かつ品質を保持することです。

  • 適切な包装材の選定: 製品に適した包装材を選び、湿気や衝撃から製品を守ります。
  • 耐久性: 長期間保存する場合、包装材は耐久性があり、品質に影響を及ぼさないものを使用します。

3.5 保管

製品や記録は、適切な場所に保管する必要があります。

保管場所の管理は、アクセスの容易さ、整理整頓、保管の期限などを含みます。

  • 適切な保管場所: 輸送中に損傷を受けないように、保管場所を工夫する必要があります。特に機械部品や電子機器などは、温湿度や直射日光を避けた場所に保管します。
  • 保管期間の管理: 保存する期間に関しても、規定や法規制に基づいて適切に設定し、期日を過ぎたものは廃棄や更新を行います。

3.6 伝送・輸送

保存されたアウトプットが外部に伝送または輸送される場合、輸送中の損傷や紛失を防ぐための管理も重要です。

  • 輸送中の保護: 製品や部品が輸送される際、適切な梱包と安全な輸送方法を選択することが求められます。輸送中に製品が損傷しないよう、特別な注意を払います。
  • トレーサビリティの確保: 伝送や輸送中に製品がどこにあるかを確認できるよう、追跡システムや記録を管理します。

3.7 保護

保存された製品や記録は、適切な保護措置が取られている必要があります。

これには、環境的な影響から守るための管理や、事故による損失を防ぐための対策が含まれます。

  • 安全管理: 保管場所は、火災、盗難、その他のリスクから保護されるべきです。これにより、貴重な製品や情報が損失するのを防ぎます。

 

4. 結論

IATF16949「8.5.4 保存」の要求事項は、製造及びサービス提供を行う際に発生したアウトプットを適切に保存し、要求事項への適合を確実にするために重要なガイドラインを提供します。

適切な保存は、製品の品質を保証するためだけでなく、顧客や規制機関の要求に対応するための証拠としての役割も果たします。

企業がこれらの要求を遵守し、実施することにより、品質の維持、リスクの低減、顧客満足の向上が期待できます。