1. はじめに
IATF 16949は、自動車業界をはじめとする製造業における品質マネジメントシステムの国際規格であり、製品の品質向上、効率的な運営、顧客満足度の向上を目指して組織全体で品質管理を行うことを求めています。
この規格に準拠するためには、製造およびサービス提供の過程を「管理された状態」で実行することが不可欠です。
そのために必要な要求事項が、8.5.1項にまとめられています。
本記事では、「8.5.1」について具体的な内容を解説し、企業がどのように実務に取り入れるべきかを詳しく説明します。
2. 要求事項の概要
8.5.1項では、「製造及びサービス提供を管理された状態で実行する」という要件に対し、具体的な実施項目として以下の要素が示されています。
これらの要素は、製品やサービスが高い品質基準を維持するために必要不可欠な要素であり、組織が品質マネジメントシステムを確立するための指針となります。
(a) 文書化した情報の利用
この要素では、製造する製品や提供するサービス、または実施する活動の特性を明確に定義し、その情報を文書化して関係者がアクセスできるようにすることが求められています。
また、達成すべき結果も明示し、それを基にしたプロセスを構築する必要があります。
- 製造する製品、提供するサービス、又は実施する活動の特性
- 製品やサービスの設計・製造における基本的な要件、仕様、標準などを文書化し、関係者に共有することが求められます。たとえば、自動車部品の製造であれば、その部品が満たさなければならない安全基準や性能基準が含まれます。
- 達成すべき結果
- 製造プロセスが達成すべき結果(例:品質基準、納期、コストなど)を明確に定め、すべてのプロセスがその結果に向かって調整されていることを確認する必要があります。
実務的アプローチ(一例)
この要件を実現するためには、製造ラインやサービスプロセスごとに基準や仕様書を整備し、スタッフが簡単にアクセスできるように管理します。電子化された文書管理システムの導入も有効です。
(b) 監視および測定の資源を確保し、使用する
製造プロセスやサービス提供の品質を管理するためには、監視・測定活動を実施するためのリソース(機器、ツール、人員)を十分に確保する必要があります。
- 監視・測定機器
- 高精度な測定機器や監視機器が必要です。これらは定期的に校正(キャリブレーション)を行い、精度を保証する必要があります。
- 適切な人員の配置
- 監視や測定に携わるスタッフには、訓練を受けた熟練者が必要です。これにより、測定誤差を最小限に抑えることができます。
実務的アプローチ(一例)
製造ラインには、進行中のプロセスを常に監視するための検査機器(例:自動測定装置、外観検査装置など)を配置します。また、スタッフに対して定期的な技術研修を行い、測定に関する能力を向上させます。
(c) プロセスおよびアウトプットの管理基準を満たしていることを検証
プロセスやアウトプット(製品やサービス)が所定の管理基準を満たしているかを確認するため、適切な段階で監視および測定活動を実施することが必要です。
- 管理基準
- 各プロセスが達成すべき基準(生産スピード、品質基準、納期など)を事前に定め、プロセスがその基準を満たしていることを確認するために定期的なチェックを行います。
- 合否判定基準
- 最終製品やサービスが合格であるかどうかを判定するための基準を明確に設定し、それに基づいて製品検査を行います。
実務的アプローチ(一例)
定期的なプロセス監査や製品検査を実施し、検査結果を記録します。特に重要な製品やサービスについては、合格基準に達していない場合、直ちに改善策を講じるための体制を整備します。
(d) 適切なインフラおよび環境の使用
製造プロセスが正常に運営されるためには、適切なインフラ(設備や施設)と環境(温度、湿度、清潔さなど)が整備されていることが求められます。
- 製造設備
- 高品質な製品を製造するために、必要な製造設備が整備され、維持管理されていることが求められます。例えば、自動車部品の組立ラインであれば、機械の稼働状態が良好であることが前提です。
- 作業環境
- 精密な製品や品質に敏感な製品を製造する場合、その作業環境(温度、湿度、清潔度など)が管理されていることが必要です。
実務的アプローチ(一例)
製造設備や作業環境の監視体制を構築し、温湿度センサーやエアコンディショナーを導入することで、作業環境を管理します。また、設備のメンテナンススケジュールを設けて、故障を未然に防ぎます。
(e) 必要な力量を備えた人々の任命
製造およびサービス提供のプロセスにおいては、適切な力量(スキルや経験)を備えた人員を任命することが求められます。
- 必要なスキルの特定
- 各作業において求められるスキル(例:機械操作のスキル、品質検査のスキルなど)を明確にし、そのスキルを有する人員を配置します。
- 訓練と教育
- その後、定期的な教育や訓練を行い、スタッフの能力を向上させます。
実務的アプローチ(一例)
スタッフには、初期教育を実施した上で、定期的に専門的な研修を行い、技術力の向上を図ります。また、重要な業務には熟練した技術者を配置し、常に高い品質を維持できるようにします。
(f) アウトプットの検証不可能な場合の妥当性確認
製造プロセスやサービス提供において、後で検証が難しいアウトプット(例:内部部品や完成品の一部)がある場合には、そのプロセスが計画通りに機能しているかを事前に確認し、また定期的に妥当性を確認する必要があります。
実務的アプローチ(一例)
内部部品や組立て後の製品については、事前にシミュレーションやプロセス能力の確認を行い、その後も問題が発生しないことを定期的に確認します。
(g) ヒューマンエラーの防止
製造およびサービス提供におけるヒューマンエラーを防止するため、適切な予防策を講じることが求められます。
実務的アプローチ(一例)
作業標準書の作成、チェックリストの活用、作業者のダブルチェック制度などを導入することで、ヒューマンエラーを最小限に抑える体制を作ります。
(h) リリース、引渡しおよび引渡し後の活動の実施
製品が顧客に引き渡される前に、品質が十分に確認され、引渡し後も必要に応じてフォローアップが行われることが求められます。
実務的アプローチ(一例)
納品前に製品検査を行い、合格したものだけを引き渡します。また、納品後のクレーム対応やサポート体制を整備し、顧客満足度の向上に努めます。
3. 結論
8.5.1の要求事項は、製造およびサービス提供における品質管理を確実に実行するための具体的な指針を提供します。
これらの要素を実務に取り入れることで、品質を高め、顧客満足を向上させるとともに、組織全体の効率化が進みます。
各組織は、これらの要件を正確に理解し、自社のプロセスに適応することで、品質マネジメントシステムの強化と改善を実現することができます。
4. 関連項番
以下、関連項番の要求事項解説もあわせてご活用ください。
4.1 関連度:大(併読を推奨)
4.2 関連度:小
5. 内部監査での確認ポイントと質問例
5.1 内部監査での確認ポイント
文書化した情報の利用
- 製品やサービスの特性が文書で明確に定義されているか
- 達成すべき結果(品質・納期など)が明記されているか
- これらの情報が関係者に周知・活用されているか
監視および測定の資源を確保し、使用する
- 測定・監視に必要な設備やツールが整備されているか
- 測定機器が定期的に校正されているか
- 測定に関わる人員が適切な力量を有しているか
プロセスおよびアウトプットの管理基準を満たしていることの検証
- プロセスごとに定めた基準があるか
- 管理基準を満たしているかを検証する仕組みがあるか
- 合否判定の基準が明確であり、検査記録が残されているか
適切なインフラおよび環境の使用
- 使用されている製造設備やインフラが適切に管理されているか
- 温湿度や清潔さなどの作業環境がコントロールされているか
- 環境条件に関する記録があるか
必要な力量を備えた人々の任命
- 各作業に必要なスキルが定義されているか
- 教育・訓練記録が整備されているか
- 実務に応じた適切な人員配置がされているか
アウトプットの検証が不可能な場合の妥当性確認
- 後工程での検証ができない場合の妥当性確認がされているか
- 妥当性確認の方法が文書化され、記録があるか
ヒューマンエラーの防止
- ヒューマンエラー防止の仕組み(作業標準、チェックリストなど)があるか
- エラー再発防止の仕組みが運用されているか
リリース、引渡しおよび引渡し後の活動
- 製品のリリース基準が明確に定義されているか
- 引渡し後の対応体制(クレーム処理、技術サポートなど)があるか
5.2 内部監査での質問例
文書化した情報の利用
- 製造・サービスの特性や仕様はどのように文書化されていますか?
- その情報は、誰がどのように確認・活用していますか?
- 達成すべき品質や納期などの結果はどこに記載されていますか?
監視および測定の資源を確保し、使用する
- 使用している測定機器は、いつ・どのように校正していますか?
- 測定作業は誰が行っており、訓練記録はありますか?
- 測定に不具合があった場合の対応フローはどうなっていますか?
プロセスおよびアウトプットの管理基準を満たしていることの検証
- プロセスで使用している管理基準や合否判定基準はどこに定められていますか?
- それらをどのように監視・記録していますか?
- 最終検査で不適合が見つかった場合、どのように対応していますか?
適切なインフラおよび環境の使用
- 設備のメンテナンスはどのように管理されていますか?
- 作業環境(温度・湿度など)はどのように監視していますか?
- 環境に関する逸脱が発生した場合の対応は?
必要な力量を備えた人々の任命
- 作業者の力量はどのように評価していますか?
- 教育や訓練の記録はどこに保管されていますか?
- 新任者や異動者に対する教育手順は?
アウトプットの検証が不可能な場合の妥当性確認
- 後で検査できない工程について、どのような妥当性確認をしていますか?
- 妥当性確認の記録はありますか?
- 工程能力分析やシミュレーションは実施していますか?
ヒューマンエラーの防止
- ヒューマンエラーを防ぐためにどのような対策を講じていますか?
- チェックリストや作業標準はありますか?
- 作業ミスが発生した場合の再発防止策は?
リリース、引渡しおよび引渡し後の活動
- 製品はどのような基準でリリースされていますか?
- 引渡し後のクレームはどのように対応・記録していますか?
- 顧客対応の記録やフォローアップの体制は整っていますか?