目次
1. はじめに
IATF 16949は、自動車業界を中心に品質マネジメントシステム(QMS)の国際規格として広く採用されています。
この規格は製品とプロセスの品質を確保し、企業全体で一貫した改善活動を行うための枠組みを提供します。
その中で「8.5.1.5 TPM(Total Productive Maintenance)」は、製造設備や機械の管理に関する重要な要求事項です。
TPMは、機械や設備の維持管理とその効率的な運用を推進するための包括的な手法であり、設備の稼働率を最大化し、製造の安定性と品質向上を図るために不可欠です。
本記事では、IATF16949「8.5.1.5 TPM」の要求事項を詳しく解説し、実際の企業でどのように実装すべきか、具体的な手法やベストプラクティスを紹介します。
2. TPMとは?
2.1 TPM(Total Productive Maintenance)の概要
TPM(Total Productive Maintenance)は、日本の製造業で発展した、設備の故障を予防し、設備の効率を最大化するための管理手法です。
TPMは「全員参加の保全活動」を重要視し、製造業務において設備の効果的な管理を行うための方法論として広く採用されています。
TPMの基本的な目的は、設備や機械のダウンタイムを最小限に抑え、稼働率を最大化することです。
TPMの大きな特徴は、従業員全員が設備管理に関与するという点です。
従業員は設備の運転者として、設備の状態を確認し、問題が発生する前に予防保全を実施します。
また、設備の管理に関する知識やスキルを全員で共有し、全員で設備を守るという文化が求められます。
2.2 TPMの目的と重要性
IATF16949におけるTPMの導入は、単に設備の管理をすることにとどまらず、製品の品質向上、コスト削減、納期遵守といった企業全体のパフォーマンス向上に寄与します。
具体的な目的は以下の通りです。
- 設備の稼働率の最大化:TPMは設備の故障を防ぎ、機械が常に最大のパフォーマンスを発揮できるようにします。
- 品質の安定性向上:設備の不調が原因で生じる品質問題を予防し、製品の品質を一定に保つことができます。
- コスト削減:設備の修理費用やダウンタイムによる生産ロスを削減します。
- 従業員の意識向上:全員が設備管理に関与することで、従業員一人ひとりの責任感と品質意識が高まります。
これらの目的を達成するためには、TPMシステムの文書化と実行が重要です。
IATF16949では、TPMシステムが確実に運用されるために、具体的な要求事項が定められています。
3. IATF16949「8.5.1.5 TPM」の要求事項
IATF16949の「8.5.1.5 TPM」における主な要求事項は、TPMシステムの文書化、実施、維持管理に関する内容です。
この規定では、TPMシステムが設備の維持管理とその効率的運用を確保するために必要な要素を明確にしています。
以下にその要素を解説します。
3.1 TPMシステムの文書化
IATF16949では、TPMシステムを文書化し、組織全体で一貫して実施し続けることが求められます。
文書化されたTPMシステムには、以下の内容が含まれます。
3.1.1 要求された量の適合製品を生産するために必要な工程設備の特定
TPMの最初のステップは、生産に必要な工程設備を明確に特定することです。
これにより、どの設備が生産プロセスに不可欠であり、優先的に保守すべきかを判断することができます。
このプロセスは、設備ごとの重要度や故障が生産に与える影響を評価し、リソースを最適に配分するために必要です。
- 工程設備の評価:各製品の生産に必要な設備を特定し、製品別に設備の稼働状況を把握します。
- 設備の優先度付け:生産の中断や品質不良を引き起こすリスクが高い設備に優先的にリソースを投入します。
3.1.2 交換部品の入手性の確保
設備の稼働を維持するためには、適切な交換部品を迅速に入手できる体制を整えることが重要です。
設備故障時に部品がすぐに入手できない場合、長期間のダウンタイムが発生する可能性があり、生産性に大きな影響を与えます。
- 交換部品の管理:重要な交換部品の在庫を維持し、必要なタイミングで迅速に交換できる体制を構築します。
- 供給チェーンの管理:部品供給業者との関係を強化し、部品供給に関するリスクを管理します。
3.1.3 機械、設備、及び施設の保全のための資源の提供
設備の維持管理には、人的資源と物的資源の提供が不可欠です。
これには、保守作業を行うための技術者や専門家、保守用の工具や機材が含まれます。
十分な資源が提供されなければ、TPMの効果は十分に発揮されません。
- 人的資源:保守作業を行う技術者の教育・訓練を行い、設備の問題を迅速に発見・対応できる体制を構築します。
- 物的資源:保守用の工具、機材、消耗品を準備し、設備の維持管理が常に行えるようにします。
3.1.4 設備、治工具、及びゲージの荷姿及び保存
設備や治工具、ゲージ(測定機器)は、適切な方法で保存し、管理する必要があります。
これにより、これらの道具が劣化することなく、常に高い精度と性能を維持することができます。
- 設備の保管:設備や治工具、ゲージの保管方法や保管場所を明確にし、適切な環境で管理します。
- 定期的なメンテナンス:治工具やゲージの定期的な点検を行い、使用前に問題がないことを確認します。
3.2 保全目標とその評価
TPMのパフォーマンスを評価するためには、具体的な保全目標が設定され、それに対する評価が行われる必要があります。
IATF16949では、保全目標として、以下の指標が求められます。
3.2.1 OEE(総合設備効率)
OEEは、設備の効率を評価するための指標であり、稼働時間、生産速度、不良率を総合的に評価します。
この指標を使用することで、設備がどれだけ効率的に稼働しているかを把握できます。
3.2.2 MTBF(平均故障間隔)
MTBFは、設備が故障するまでの平均的な稼働時間を示す指標です。
この値が高いほど、設備の信頼性が高いことを意味します。
3.2.3 MTTR(平均修理時間)
MTTRは、設備が故障した際の平均的な修理時間を示す指標です。
この値が短いほど、設備の修理対応が迅速であり、ダウンタイムが少ないことを意味します。
3.2.4 予防保全の順守指標
予防保全の順守率も重要な指標です。
予定されていた保全作業が期日通りに実施されたか、計画通りのメンテナンスが行われたかを評価します。
3.3 保全計画と是正処置
保全目標に対するパフォーマンスが達成されていない場合は、是正処置を講じる必要があります。
定期的なレビューを行い、目標未達の場合は迅速に対応します。
3.3.1 定期的なレビュー
保全計画は定期的に見直し、改善点を特定する必要があります。
レビューの結果、設備の問題が早期に発見され、適切な是正処置が取られることが求められます。
3.3.2 是正処置
目標未達の場合には、具体的な是正処置を実施し、問題の根本原因を取り除くための対策を講じます。
3.4 予防保全と予知保全
TPMの中核となるのが予防保全と予知保全です。予防保全は故障が起きる前に設備を点検し、問題を未然に防ぐことを目指します。
予知保全は設備の状態をリアルタイムで監視し、故障の兆候を早期に発見する方法です。
3.4.1 予防保全の実施
定期的な点検、交換部品の交換、オーバーホールなど、計画的な保全を行います。
3.4.2 予知保全の実施
IoT技術を活用した設備の監視やセンサーによる異常検出など、予知保全の方法を取り入れることで、設備の故障を事前に予測し、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。
3.5 定期的オーバーホール
設備の長期的な稼働を確保するために、定期的なオーバーホール(全面的な点検と修理)を実施することもTPMの重要な要素です。
オーバーホールは設備の寿命を延ばし、突発的な故障を防ぐ効果があります。
4. TPMの導入と運用のポイント
TPMを効果的に導入するためには、以下のポイントが重要です。
- 経営層のサポート:TPMは全社的な取り組みです。経営層の理解とサポートが欠かせません。
- 全員参加の文化:TPMは全員が参加する活動です。従業員全員の意識改革と教育が求められます。
- 継続的改善:TPMは一度実施すれば終わりではなく、継続的に改善を図ることが重要です。
5. まとめ
IATF16949の「8.5.1.5 TPM」は、設備管理を通じて生産性の向上と品質の安定化を実現するための重要な要求事項です。
TPMシステムを適切に文書化し、実施・維持することにより、設備の効率を最大化し、予防保全や予知保全を活用して、設備のダウンタイムを削減し、企業全体の生産性を向上させることができます。