IATF 16949 8.6.6項:合否判定基準【要求事項解説】

1. はじめに

自動車業界において、製品の品質や性能はその安全性と直結しています。

製品に欠陥があれば、車両の安全性や信頼性に重大な影響を与える可能性があり、その結果として企業のブランド価値や法的リスクも高まります。

このようなリスクを避けるために、製品の検査プロセスにおいて「合否判定基準」が極めて重要な役割を果たします。

IATF16949規格の「8.6.6 合否判定基準」では、製品検査の合否基準を組織が明確に定め、それを顧客の承認を得ることを求めています。

さらに、抜取り検査の際の合否判定は「不良ゼロ(ゼロ・ディフェクト)」を目指すべきだとしています。

本記事では、この「合否判定基準」の重要性とその実施方法について、具体的な解説を行います。

 

2. 合否判定基準の定義と重要性

2.1 合否判定基準とは?

合否判定基準とは、製品や部品が規定された品質基準を満たしているかどうかを判断するための基準です。

具体的には、製品検査の結果が合格か不合格かを判定するための基準を指します。

この基準に基づき、製品の検査結果が「合格」または「不合格」と評価され、最終的な出荷可否が決まります。

IATF16949規格では、合否判定基準を「組織が定める」ことを求めています。

つまり、各組織は製品やサービスの品質要件に基づいて、自社の合否判定基準を策定する責任があります。

また、顧客が要求する場合や合意がある場合には、これらの基準が顧客に承認される必要があるとしています。

2.2 合否判定基準の役割と目的

合否判定基準は、製品が設計仕様、性能基準、または安全基準に従っていることを確認するために欠かせません。

もし不良品が市場に流通してしまうと、安全性や品質に重大な問題が生じる可能性があるため、合否判定基準はそのリスクを最小限に抑える役割を担っています。

具体的な目的としては以下の点が挙げられます。

  • 品質の一貫性を確保:全ての製品が同じ基準に従って検査されるため、品質の一貫性を保つことができます。
  • 顧客満足の向上:品質基準を満たす製品が顧客に提供されることで、顧客満足度が向上します。
  • 法規制への適合:製品が法規制に従っていることを確認するために必要です。
  • 不良品の排除:製品に不良が含まれないよう、しっかりとした基準で検査を行い、不良品を市場に流通させないことができます。

 

3. 合否判定基準の策定方法

3.1 合否判定基準の設定

IATF16949では、合否判定基準を組織が設定しなければならないとされています。

これには、製品の特性や使用目的、顧客の要求などを考慮したうえで、具体的な判定基準を定める必要があります。

以下は、合否判定基準を設定する際の一般的なステップです。

  1. 製品要求の理解
    • まず、製品に求められる品質基準を明確に理解します。これには、設計仕様書や顧客の要求事項、関連する法規制などが含まれます。
  2. 検査項目の決定
    • 合否判定基準を設定するには、どの項目が重要かを見極める必要があります。例えば、寸法、外観、機能、安全性、耐久性などの項目が考慮されます。
  3. 合否判定基準の具体化
    • 各項目に対して、「合格」「不合格」の基準を具体的に設定します。例えば、寸法が±0.5mm以内であれば合格、±0.6mm以上であれば不合格というように、明確な基準を設けます。
  4. 顧客の要求に基づく修正
    • 顧客が特定の品質基準を要求している場合、それに基づいた基準を設定する必要があります。また、顧客によっては、この基準が承認されることを求めることがあります。
  5. 内部承認と文書化
    • 定めた合否判定基準は、組織内で承認され、文書化されます。これにより、基準が一貫して適用されることが保証されます。

3.2 顧客による承認

IATF16949の「8.6.6 合否判定基準」では、「必要に応じて」顧客に承認を得ることが求められています。

これは、顧客が自社の合否判定基準に対して特定の要求を持っている場合、または顧客が合否判定基準に対して何らかの確認を行いたい場合に適用されます。

顧客が基準を承認するプロセスは、通常以下の流れで進行します。

  • 顧客からの要求事項の収集:顧客がどのような品質基準を要求しているかを確認します。
  • 提案する合否判定基準の提示:組織が設定した基準を顧客に提示します。
  • 顧客のレビューと承認:顧客が基準を確認し、承認します。この際、必要に応じて基準を調整することもあります。
  • 承認の記録:顧客によって承認された合否判定基準は、文書として記録されます。

 

4. 抜取り検査と「ゼロ・ディフェクト」

4.1 抜取り検査とは

抜取り検査(Sampling Inspection)は、製品全体を検査するのではなく、一定のサンプルを抽出して検査を行う方法です。

これは、製造ラインで大量の製品を扱う際に有効な方法で、コストや時間を削減するためによく使用されます。

抜取り検査の合否判定基準は、製品の品質を代表するサンプルを適切に選び、その検査結果を全体の品質の指標として判断することになります。

4.2 ゼロ・ディフェクト(Zero Defects)

IATF16949では、抜取り検査における合否判定水準として、「不良ゼロ(ゼロ・ディフェクト)」が求められています。

これは、製品に不良が一切含まれていないことを求める非常に厳しい基準です。

ゼロ・ディフェクトを目指すということは、製品全体の品質が完全であることを保証するものであり、製品の信頼性や安全性を最優先する姿勢を示しています。

この考え方は、特に自動車産業のような高い安全基準を要求される業界においては不可欠です。

不良が1つでも発生すれば、それが重大なリスクとなり得るため、検査基準を「不良ゼロ」に設定することは、企業としての品質保証の責任を全うするために必要なことです。

 

5. 合否判定基準の維持と改善

一度設定された合否判定基準は、製品や工程の変化に応じて見直す必要があります。

例えば、新しい技術が導入された場合や、顧客から新たな要求があった場合、基準を適切に変更することが求められます。

また、品質の改善活動に基づいて、合否判定基準が改善されることもあります。

これにより、製品の品質が常に高いレベルで維持され、顧客の期待に応えることができます。

 

6. 結論

IATF16949の「8.6.6 合否判定基準」は、品質保証の根幹をなす重要な要素です。

組織は、製品やサービスが顧客の要求に適合しているかを判定するための基準を確実に設定し、それを適切に管理しなければなりません。

さらに、抜取り検査における「ゼロ・ディフェクト」を目指すことで、製品の品質リスクを最小化し、顧客に信頼される製品を提供することができます。

この基準の策定と遵守は、品質の向上と顧客満足度の向上に繋がり、企業の競争力を強化するための重要な手段となります。