目次
はじめに
IATF 16949は、自動車業界の品質マネジメントシステム(QMS)を確立・運用するための国際規格であり、品質向上や顧客満足の達成を目指しています。
この規格は、リスク及び機会の管理に対して明確な指針を提供しており、その中でも「6.1.2 リスク及び機会への取組み」は、リスクと機会に対する計画的な対応を強調しています。
この要求事項は、組織がリスクを最小化し、機会を最大化することで、持続的な改善と競争力の強化を実現するために不可欠です。
この記事では、IATF 16949の「6.1.2 リスク及び機会への取組み」について詳細に解説し、実際の運用方法、関連する概念、そして組織がリスク及び機会にどのように対応していくべきかを明示します。
1. IATF 16949「6.1.2 リスク及び機会への取組み」の目的と重要性
まず、「6.1.2」の要求が設けられた背景について理解することが重要です。
この規定は、リスク管理を単なる予防的手段にとどめず、機会の最大化を図るための戦略的な要素として捉えています。
リスクと機会の取組みが適切に行われることで、組織は予期しない不利益を回避し、長期的な成長のための可能性を拡げることができます。
特に自動車産業においては、リスクと機会の管理が成功するかどうかが品質と生産性に直結するため、企業の競争力を決定づけます。
IATF 16949は、以下のような目的を持っています:
- リスクの最小化:潜在的な問題を未然に防ぎ、組織の品質に悪影響を及ぼすリスクを最小限に抑える。
- 機会の最大化:新たな技術、製品、マーケットに関する機会を積極的に活用し、競争優位性を獲得する。
- 持続的な改善:リスクを減らし、機会を活かすことで、品質の向上と顧客満足度の向上を目指す。
これらの目的を実現するためには、リスクと機会に対する具体的かつ効果的な取り組みが欠かせません。
2. 6.1.2 の要求事項詳細解説
IATF 16949「6.1.2 リスク及び機会への取組み」には、組織がどのようにリスク及び機会に対応すべきか、そしてその取組みをどのように実行するかに関する具体的な指針が含まれています。
この要求事項の主な内容は、以下の2つのポイントに集約されます:
a) リスク及び機会への取組みの計画
「6.1.2」の最初の部分では、リスク及び機会への取組みを計画する必要性が強調されています。
組織は、すでに「6.1.1」の段階で決定したリスクと機会に対する具体的な対応策を立案し、それを実行する準備を整えなければなりません。
この取組みには、次のようなアクションが含まれます:
- リスクと機会に対する対応策の選定
- リスクに対する対応策(リスク回避、リスク転嫁、リスク低減など)を決定します。
- 機会に対しては、それを積極的に追求するためのアクションを決定します(新技術の導入、新市場の開拓など)。
- リソースの確保
- リスクと機会への取組みを実行するために、必要なリソース(人員、時間、予算)を確保します。
- 役割と責任の設定
- リスクと機会に対する対応策を実行する担当者を特定し、その責任を明確にします。
- 進捗の管理
- リスクと機会への取組みが適切に実施されているかを定期的に確認し、進捗を管理します。
b) 取組みの実施方法と評価
次に、リスクと機会への取組みを実施し、その効果を評価する方法が示されています。
具体的には、次の2つの要素が重要です:
- 品質マネジメントシステム(QMS)プロセスへの統合及び実施(4.4参照)
- リスクと機会への取組みは、組織の品質マネジメントシステム(QMS)に統合され、日常的な業務プロセスの一部として実施されなければなりません。これにより、リスク管理は単なる独立した活動ではなく、組織全体での品質向上活動の一環として定着します。
- たとえば、新製品の設計段階でリスク評価を行い、その結果を設計・開発プロセスに反映させる、または製造工程でのリスク管理を行い、製品の品質に影響を与えないようにするなど、全てのプロセスでリスク管理を実践します。
- 取組みの有効性の評価
- 実施されたリスク及び機会への取組みが効果を上げているか、組織の目的に貢献しているかを評価します。具体的な指標を設定し、その効果を測定することで、必要な改善点を特定し、次のステップに生かします。
- 例えば、リスク低減策の効果を製品の不良率の低減として評価することが考えられます。逆に、機会を活用した新市場開拓が成功しているかどうかを、売上の増加や新規顧客の獲得数を通じて評価します。
3. リスクへの取組みの選択肢
リスクに対する具体的な取組み方法については、「注記1」において以下の選択肢が示されています。
リスク管理には、いくつかのアプローチがあり、状況に応じて適切な方法を選択することが求められます。
- リスク回避:リスクを完全に排除する方法です。例えば、リスクのある工程を変更することによって、リスクを回避します。
- リスクを取る:機会を追求するためにリスクを受け入れる方法です。新技術や新市場への進出などでは、一定のリスクを取ることがあります。
- リスク源の除去:リスクを引き起こす要因を取り除く方法です。例えば、不良品の原因となる設備の故障を防ぐために定期的なメンテナンスを実施することが該当します。
- リスクの分散:リスクを他の部分に分散する方法です。例えば、サプライヤーを多様化することによって、供給リスクを分散させることができます。
- リスクの共有:リスクを他の組織やパートナーと共有する方法です。例えば、共同開発プロジェクトにおいてリスクを分担することが考えられます。
- リスクを受け入れる:リスクを承知で、特にリスクを回避するための対応策が高コストである場合などに、リスクを保有するという選択をすることもあります。
4. 機会への取組み
IATF 16949では、機会への取組みも重要視されています。機会は、組織にとって新たな成長のチャンスであり、競争力を高める源です。
「注記2」では、以下のような機会が挙げられています:
- 新製品や新サービスの開発
既存の市場に新たな製品やサービスを導入することで、売上や市場シェアの拡大を目指す。 - 新市場への進出
地理的な拡大や新たな業界に進出することにより、ビジネスチャンスを広げる。 - 技術革新
新しい技術や方法を採用し、生産性や品質を向上させる。 - 顧客ニーズへの対応
顧客の新たな要求やニーズに応える製品・サービスを提供すること。
これらの機会に対しては、積極的に取り組み、リスクを管理しながら実行することが求められます。
まとめ
IATF 16949「6.1.2 リスク及び機会への取組み」は、組織がリスクと機会に適切に対応し、品質マネジメントシステムの効果を高め、持続可能な改善を実現するための基本的な指針です。
リスクを適切に管理し、機会を最大化することで、組織は顧客満足を向上させ、競争優位性を確保することができます。