1. はじめに
IATF16949は自動車業界向けの品質マネジメントシステム規格であり、その目的は製品やサービスが顧客要求を確実に満たし、かつ安全で信頼性のあるものを提供することです。
品質は単なる製品の性能や機能だけでなく、顧客の期待に沿うか、規制要件を満たすかなど、さまざまな要素を考慮しなければなりません。
この規格の中で、「8.2.3.1 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー」という項目は、顧客の要求を適切に理解し、それに対応した製品やサービスを提供するために必要なレビューのプロセスを定めています。
本記事では、「8.2.3.1 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー」について、要求事項の具体的な内容やその重要性、実務にどのように適用するかについて詳細に解説します。
2. 要求事項
「8.2.3.1 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー」では、組織が製品及びサービスの提供に関して顧客の要求を満たす能力を確保するための重要なレビューを行うことを求めています。
このレビューは、製品やサービスの提供前に必ず実施しなければならないもので、レビューによって不明点や不整合を事前に解消し、顧客の期待に応える製品やサービスを提供することが可能となります。
(a) 顧客が規定した要求事項
まず、最も重要なことは顧客が明確に規定した要求事項です。
顧客からの仕様書、契約書、注文書には、製品やサービスに対する具体的な要求が記載されています。
これには、製品の性能、品質、納期、数量、特定の技術的要件、法令・規制遵守の必要性などが含まれます。
また、引渡しや引渡し後のサポートに関する要件もこの段階で確認します。
製品やサービスを提供する前に、顧客が指定したこれらの要求事項がすべて満たされることを確認することが最初のステップとなります。
このレビューは、顧客からの情報が正確で完全であることを確保するため、細心の注意を払って行われます。
(b) 顧客が明示していないが、意図された用途に応じた要求事項
顧客が明示していない場合でも、顧客の製品やサービスの意図された用途が既に明確である場合、それに基づいて要求される事項を特定することが重要です。
たとえば、自動車部品であれば、使用される車両の種類(エコカー、スポーツカー、大型車両など)に応じた特定の耐久性、性能、環境条件を満たす必要があります。
これらの「隠れた暗黙の要求」を明確にすることは、製品設計や製造において重要なステップとなり、結果として不具合やクレームを未然に防ぐために不可欠です。
(c) 組織が規定した要求事項
顧客からの要求事項に加えて、組織内部で定めた基準や仕様も考慮しなければなりません。
たとえば、製造工程で使用される材料の品質基準や、部品の検査基準などです。
これらは顧客要求事項に基づいて策定されることが多いですが、組織内部で追加的に設けられた要件がある場合、それらが製品に組み込まれていることを確認することが求められます。
(d) 製品及びサービスに適用される法令・規制要求事項
製品及びサービスに関しては、法的な規制を遵守することが極めて重要です。
IATF16949は、製品が提供される地域や市場において適用される法令・規制要件(例えば、環境規制、安全基準、品質基準など)を十分に確認し、これを満たすことを求めています。
製品やサービスが適用される法令に適合していない場合、製品の市場投入が阻止されるだけでなく、法的な責任を問われる可能性があります。
したがって、製品が出荷される前に、これらの法令・規制要件が全て確認されていることが必要です。
(e) 以前に提示されたものと異なる契約または注文の要求事項
顧客との過去の取引で定められた要求事項と異なる内容が注文や契約に含まれている場合、それが適切に解決されていることを確認しなければなりません。
例えば、顧客が新しい技術仕様や追加の品質要件を要求する場合、これに対応するための内部プロセスの調整やリソースの割り当てが必要となります。
もし顧客の要求に変更があった場合、その変更内容が製造能力や納期、コストに与える影響を十分に評価し、組織内で適切に対処することが求められます。
3. 顧客要求事項の確認方法
顧客要求事項を確認するためには、いくつかの重要な手順があります。
3.1 ドキュメントの確認
顧客から提供された契約書、仕様書、注文書を精査し、要求事項が明確に記載されているかを確認します。
また、もし不明瞭な点があれば、早急に顧客と確認を取ることが重要です。
特に、顧客が要求する品質基準、納期、検査項目については正確に理解する必要があります。
3.2 コミュニケーション
顧客との定期的なコミュニケーションは非常に重要です。
特に、設計段階や生産準備段階では、顧客が指定する要求事項に関して理解が不十分な場合、随時確認を行い、誤解や行き違いがないようにすることが求められます。
メールや電話、会議などを通じて、要件の確認を行い、曖昧な点を解消することが大切です。
3.3 チェックリストとプロセスの整備
要求事項の確認を効果的に行うためには、チェックリストを活用し、項目ごとに漏れなく確認することが有効です。
また、顧客要求のレビューを標準化したプロセスとして組織内で運用し、各部門が一貫して対応できるようにしておくことも重要です。
4. 結論
「8.2.3.1 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー」は、製品及びサービスが顧客の要求に適合していることを確認するために必要な重要なプロセスです。
顧客が指定した要求事項や意図された用途、法令・規制の要件、変更点などをしっかりとレビューし、これに対応する製品やサービスを提供することが求められます。
このプロセスを徹底することで、顧客からの信頼を得るとともに、製品やサービスが市場で適切に受け入れられ、品質の高いものが提供されることが保証されます。
5. 関連項番
以下、関連項番の要求事項解説もあわせてご活用ください。
5.1 関連度:大(併読を推奨)
5.2 関連度:小
6. 内部監査での確認ポイントと質問例
6.1 内部監査での確認ポイント
(1) 顧客要求事項の適切なレビューの実施
- 製品・サービスの提供前に、顧客要求事項のレビューが確実に実施されているか
- 顧客からの注文書、仕様書、契約書に記載された要求事項が把握・記録されているか
- レビュー結果の記録や証跡が残されているか
(2) 明示されていない要求事項(意図された用途)の特定と反映
- 顧客が明示していないが、意図された用途に基づく要求事項が適切に特定されているか
- 使用環境や性能要件などを考慮し、設計・製造に反映されているか
- 暗黙的要求事項に対して技術的根拠や社内基準があるか
(3) 組織独自の要求事項の管理
- 組織が定めた検査基準や品質基準が顧客要求事項と整合しているか
- 社内要求事項も含めて、レビューの対象としているか
- 組織独自の品質・技術基準が文書化され、運用されているか
(4) 法令・規制要求事項のレビュー
- 製品・サービスに適用される法令・規制を特定し、レビューに含めているか
- 法令・規制に関する情報が定期的に更新され、関係者に共有されているか
- 規制への適合性を確認する手順や記録が整備されているか
(5) 契約や注文内容の変更管理
- 以前の契約や注文と異なる要求事項がある場合、変更点の確認と記録がされているか
- 変更に伴う影響(納期、リソース、コストなど)が評価されているか
- 顧客との合意内容の更新が明確に管理されているか
6.2 内部監査での質問例
(1) 顧客要求事項のレビューに関する質問
- 顧客から提供された仕様書や注文書をどのように確認していますか?
- 要求事項のレビューはいつ、誰が、どのようなプロセスで実施していますか?
- 要求事項のレビュー記録はどのように保管されていますか?
(2) 意図された用途に関する質問
- 顧客が明示していない要求事項について、どのように把握し対応していますか?
- 製品の使用環境や用途に応じた技術的配慮はどのように実施していますか?
- 使用条件に関する想定や設計の根拠はどのように確認していますか?
(3) 組織独自の要求事項に関する質問
- 社内で定めた追加的な検査基準や品質基準はありますか?
- それらの基準は、どのように顧客要求事項と整合性を取っていますか?
- 組織独自の基準が製品に反映されているかどうかの確認方法は?
(4) 法令・規制要求事項に関する質問
- この製品に適用される法令や規制は何ですか?
- 法令・規制情報の入手方法や更新方法はどうなっていますか?
- 規制への適合性を確認する際の記録やチェックリストは整備されていますか?
(5) 契約変更に関する質問
- 顧客からの要求内容に変更があった場合、どのように管理していますか?
- 以前の契約と異なる点を誰が確認し、どのように対応していますか?
- 契約変更が生産計画や品質計画に与える影響はどう評価されていますか?