IATF 16949 5.3.1項:組織の役割、責任及び権限-補足【要求事項解説】

はじめに — 顧客要求事項を満たすための責任と権限の割り当て

IATF 16949は、世界中の自動車業界で品質マネジメントシステム(QMS)を運営するための基準を定めており、その要求事項は品質管理の各側面を網羅しています。

中でも「5.3.1 組織の役割、責任及び権限-補足」のセクションは、顧客要求事項を確実に満たすために、適切な要員を任命し、その責任と権限を明確にすることの重要性を強調しています。

このセクションは、特に品質管理の重要な活動を担当する役割の明確化に焦点を当てています。

本記事では、この要求事項の背景とその実施方法について詳しく解説し、顧客要求事項を満たすためにどのように組織内で役割、責任、権限を割り当てるべきかを考察します。

 

1. 顧客要求事項を満たすことの重要性

自動車業界においては、顧客要求事項を満たすことが企業の競争力の基盤であり、また品質の最も重要な指標でもあります。

顧客要求事項は製品やサービスの仕様に直接関連し、それを満たすことが顧客満足に繋がり、最終的には組織の持続可能な成長を支えることになります。

IATF 16949の「5.3.1 組織の役割、責任及び権限-補足」では、顧客要求事項を満たすために必要な組織の役割を明確にし、各メンバーに適切な責任と権限を付与することを求めています。

これによって、全員が顧客要求事項に対してどのように貢献すべきかを理解し、品質目標を達成するために一丸となって取り組むことができるようになります。

 

2. 顧客要求事項を満たすための役割と責任の明確化

IATF 16949「5.3.1」では、トップマネジメントが責任及び権限をもつ要員を任命し、それを文書化することを求めています。

この任命は、顧客要求事項に関する様々な側面に対応する役割を持つ要員に割り当てられます。

以下に挙げる具体的な分野は、その一部に過ぎませんが、いずれも顧客満足を達成するために極めて重要です。

a) 特殊特性の選定

自動車業界では、製品の安全性や性能に大きく影響を与える「特殊特性」が存在します。

例えば、エンジンの部品、ブレーキ、エアバッグなど、安全や環境に関わる特性がこれにあたります。

これらの特殊特性は、顧客要求を満たすために極めて重要な項目であり、適切に管理しなければなりません。

  • 責任の割り当て: トップマネジメントは、特殊特性を選定し、それを管理するための担当者を任命します。この担当者は、特性の選定基準を設定し、その管理プロセスを監視します。
  • 文書化: 特殊特性の選定プロセスとその管理方法は、文書化して全社に共有し、従業員が一貫して適切に対応できるようにします。

b) 品質目標の設定

品質目標は、組織が達成すべき具体的な基準を設定するものであり、顧客要求を満たすための指針となります。

目標の設定は、組織全体の戦略と整合性を持たせる必要があります。

  • 責任の割り当て: トップマネジメントは、品質目標を設定する責任を持つ要員を任命します。この担当者は、顧客要求事項や市場動向を分析し、達成可能でありながら挑戦的な品質目標を設定します。
  • 継続的なレビュー: 設定した目標は定期的にレビューされ、必要に応じて修正や改善が行われます。目標の達成状況はトップマネジメントに報告され、その結果を基に改善策が講じられます。

c) 教育訓練

品質マネジメントシステムを効果的に運用するためには、従業員が適切なスキルと知識を持っていることが重要です。

特に、顧客要求に対応するためには、従業員がその要求事項を理解し、適切に実行できるように教育訓練を行う必要があります。

  • 責任の割り当て: 教育訓練の計画と実施は、専任の担当者または部署が行います。この担当者は、必要な教育訓練を特定し、全従業員が参加できるように調整します。
  • 教育の進捗確認: 教育訓練が適切に実施されているかを監視し、訓練後のフォローアップや評価も行います。

d) 是正処置及び予防処置

品質問題が発生した場合に、それを是正し、再発を防ぐための予防処置を講じることは、顧客満足を維持するために不可欠です。

  • 責任の割り当て: 是正処置及び予防処置を担当する要員は、問題の根本原因を分析し、その対策を実行します。これにより、問題が再発しないようにします。
  • 文書化と記録: すべての是正処置と予防処置のプロセスは文書化し、関係者全員が確認できるようにします。また、その効果を確認し、必要に応じて改善策を講じます。

e) 製品の設計・開発

製品の設計と開発は、顧客要求を満たす最初のステップです。

このプロセスには、顧客の要求を正確に反映させるための高い技術力と精度が求められます。

  • 責任の割り当て: 設計・開発の責任者は、顧客の要求に基づいた製品設計を行い、試作・テストを経て製品化します。
  • 適切なレビューと監視: 設計段階では、顧客要求が十分に反映されているかを確認するためのレビューが行われます。設計の進捗や品質についても定期的に評価し、改善を行います。

f) 生産能力分析

顧客要求を満たすためには、生産体制がその要求に対応できる能力を持っていることが必要です。

生産能力分析は、そのための重要な活動です。

  • 責任の割り当て: 生産能力分析を担当する要員は、生産ラインの能力、設備の状況、供給チェーンの効率などを評価し、必要な改善策を提案します。
  • 改善活動: 生産能力が不足している場合、増強策や設備投資、プロセス改善を計画し、実行します。

g) 顧客スコアカードと顧客ポータル

顧客からのフィードバックを効果的に活用することは、品質向上のための重要な要素です。

顧客スコアカードやポータルを活用して、顧客の満足度や品質パフォーマンスを定期的に評価することが求められます。

  • 責任の割り当て: 顧客スコアカードやポータルを管理する担当者は、顧客からのフィードバックを集計・分析し、改善点を特定します。
  • 改善アクション: 顧客の要求や意見に基づいて、品質改善を行い、顧客満足度の向上を図ります。

 

3. 結論: 顧客要求事項を確実に満たすための責任と権限の管理

IATF 16949「5.3.1 組織の役割、責任及び権限-補足」における要求事項は、顧客要求事項を確実に満たすために、組織内で適切な責任と権限を持つ要員を任命し、その役割を明確化することの重要性を示しています。

トップマネジメントは、これらの役割を文書化し、全員がその責任を果たせるようにサポートすることで、組織全体が顧客の要求に適切に応えることができる体制を整えます。

このようにして組織内の役割、責任、権限が適切に割り当てられることで、顧客満足を達成し、品質マネジメントシステムの効果的な運営が実現されるのです。