IATF 16949 5.3.2項:製品要求事項及び是正処置に対する責任及び権限【要求事項解説】

はじめに — 顧客満足を保証するための組織的アプローチ

IATF 16949の規格は、自動車産業における品質マネジメントシステム(QMS)の強化を目的としています。

特に、「5.3.2 製品要求事項及び是正処置に対する責任及び権限」のセクションは、製品の品質問題が発生した際に、どのように迅速かつ効果的に対応するか、そして製品が顧客に渡る前にどのように不適合品を識別・封じ込めるかに重点を置いています。

この要求事項は、組織内での責任と権限の明確化により、品質問題に迅速に対応し、顧客満足を損なうことなく問題を解決するための枠組みを提供します。

本記事では、この要求事項の背景と重要性、実施方法、そして組織としてどのように適切に対応していくべきかを詳述します。

 

1. 製品要求事項への適合と品質管理の重要性

自動車業界では、製品が顧客要求事項を満たさない場合、直接的な品質問題として大きな影響を与えます。

顧客の信頼を損なうだけでなく、安全性や法規制の面での問題も引き起こす可能性があります。

したがって、製品が顧客の要求に適合していることを常に確認し、もし問題が発生した場合には、迅速に是正処置を講じることが不可欠です。

IATF 16949「5.3.2」の要求は、製品要求事項に適合していない場合、組織が即座に対応できる体制を整えることを求めています。

特に、製品要求事項に適合しないことが発覚した場合に生産停止や出荷停止を決定できる権限を持つ要員を任命し、これに基づく迅速な対応を行うことが求められています。

 

2. 製品要求事項に適合するための責任と権限の確立

a) 品質問題への対応: 出荷・生産停止の権限

トップマネジメントは、製品要求事項に適合しない品質問題が発生した際に、適切に対応できる要員を任命する責任があります。

この要員は、品質問題が確認された場合に出荷停止生産停止の判断を下す権限を持つ必要があります。

これにより、不適合製品が顧客に渡る前に問題を封じ込め、顧客満足の低下やブランドへの悪影響を未然に防ぎます。

出荷停止・生産停止の権限:

  • 品質問題が発覚した場合、迅速に生産を停止し、問題のある製品が市場に出荷されることを防ぐことができます。
  • 産業特有の理由により、直ちに生産を停止できない場合もあります。その場合は、不適合品の影響範囲を特定し、顧客への出荷を防ぐために「封じ込め」措置を講じます。これにより、潜在的なリスクを最小限に抑えます。

例えば、自動車部品の製造においては、製品の変更が工程設計に大きな影響を与えるため、即座に生産ラインを停止することが難しい場合があります。

このような場合、影響を受けるロットを「封じ込め」し、すぐに顧客への出荷を防ぐための措置を取ることが求められます。

権限と責任の委任:

  • 出荷や生産停止の決定は、担当する要員に委任されることが多いですが、その要員には十分な権限と責任が与えられるべきです。
  • そのため、担当者は、品質問題の発生を迅速に特定し、必要な措置を取るための十分な判断力と権限を持っている必要があります。

b) 是正処置の迅速な実施と情報共有

品質問題が発覚した場合、それを迅速に是正するためには、是正処置を担当する要員に情報が速やかに報告されることが求められます。

この情報共有の流れがスムーズでなければ、品質問題を未然に防ぐことが難しくなります。

是正処置の実行:

  • 不適合品やプロセスの問題が発見されると、是正処置を担当する要員はその情報を受け取り、迅速に原因を特定して対策を講じる責任があります。これには、不適合製品の回収、修理、またはプロセスの変更が含まれます。
  • 是正処置は、品質問題を再発防止するために、根本原因を突き止め、その後の改善策を実行することを意味します。

情報の共有と管理:

  • 不適合製品や品質問題に関する情報は、関連部署や全関係者に速やかに伝達される必要があります。これにより、同じ問題が再発するのを防ぎ、組織全体で適切な対応が取れるようにします。
  • 特に、全てのシフトにわたる生産活動においても、情報が適切に伝達され、問題が早期に発見される体制が整えられている必要があります。

 

3. シフトごとの責任者の配置と監視

IATF 16949の要求事項では、全てのシフトにおいて、製品要求事項への適合を確実にする責任を負う要員を配置することを求めています。

製造業では、24時間稼働するシフト制の工場も多いため、各シフトごとに適切な責任者を配置することが不可欠です。

シフトごとの責任者の配置:

  • 各シフトごとに責任者を配置し、その者が製品要求事項への適合を確保する責任を負います。これにより、シフトごとに品質が維持され、連続的な品質管理が実現します。
  • これらの責任者は、シフト終了後にその結果を報告し、翌シフトへの情報共有が行われる体制を作ります。

監視と報告の仕組み:

  • 各シフトにおいて、品質管理の監視と定期的な報告が行われるべきです。例えば、定期的な品質チェック、作業環境の確認、不適合品の記録と報告が含まれます。
  • トップマネジメントは、これらの報告を基に、品質状況の監視を行い、必要に応じて改善活動を指示します。

 

4. 結論 — 顧客要求事項を満たすための確実な体制作り

IATF 16949「5.3.2 製品要求事項及び是正処置に対する責任及び権限」は、品質問題が発生した際に、組織が迅速に対応できる体制を整えることを強調しています。

トップマネジメントは、品質問題に迅速かつ効果的に対応できる要員に適切な責任と権限を与え、その役割を明確にする必要があります。

特に、出荷停止生産停止の権限を持つ要員を任命し、問題が顧客に影響を与える前に封じ込めるための迅速な対応を実現することが求められます。

また、全シフトにおいて責任者を配置し、品質管理を徹底することで、24時間体制で品質を維持し続けることが可能となります。

これらの要素を確実に実行することで、組織は製品要求事項に適合した品質を保証し、顧客満足を向上させることができます。