IATF 16949 8.3.6項:設計・開発の変更【要求事項解説】

はじめに

IATF 16949の「8.3.6 設計・開発の変更」は、製品やサービスの設計・開発における変更管理の重要性を強調するセクションです。

品質管理システムの一環として、設計・開発段階で行われる変更が製品の要求事項に悪影響を及ぼさないようにするために、変更の識別、レビュー、管理のプロセスが必須であることを定めています。

この要求を実行することによって、組織は品質の維持と改善を図り、顧客に対して安定した製品を提供することができます。

本記事では、「8.3.6 設計・開発の変更」の要求事項を詳しく解説し、その実践方法についても紹介します。

 

1. 設計・開発の変更管理の重要性

設計・開発の変更は、製品やサービスの品質、機能性、納期、コストに大きな影響を与える可能性があります。

特に、変更が適切に管理されない場合、次のような問題が発生する可能性があります。

  • 品質低下: 設計の変更が不完全に行われたり、適切にレビューされなかった場合、製品の品質が低下する可能性があります。
  • 不適合: 変更が適切に実施されていないと、製品が顧客の要求を満たさない場合や、不良品が発生するリスクが高まります。
  • コスト増加: 変更による追加作業や、誤った変更が原因で修正作業が発生し、コストが増加することがあります。
  • 納期遅延: 設計変更が適切に管理されていないと、製造工程や供給チェーンに支障をきたし、納期が遅れることもあります。

したがって、IATF 16949は設計・開発の変更を適切に管理することを求め、製品やサービスの品質を確保するために変更の影響を最小限に抑えることが求められています。

 

2. 変更管理の基本的なプロセス

「8.3.6 設計・開発の変更」の要求事項において、組織は設計・開発の変更を識別、レビュー、管理することを求められています。

このプロセスを適切に実施するためには、次のステップを踏む必要があります。

2.1 変更の識別

設計・開発の変更が発生した場合、その変更がどのような影響を及ぼす可能性があるかを評価することが最初のステップです。

変更が製品の仕様、性能、品質、コスト、納期などに与える影響を特定します。

変更が必要な理由、変更の内容、そして変更が及ぼす影響を明確にすることで、その後のプロセスがスムーズに進行します。

具体的には、設計の修正、新しい技術の導入、製造工程の変更、部品の変更などが変更対象となります。

2.2 変更のレビュー

変更が識別された後、その変更が製品やサービスにどのように影響を与えるかを関係者とレビューすることが求められます。

関係者には、設計チーム、製造部門、品質管理部門、サプライヤー、場合によっては顧客も含まれることがあります。

レビューを通じて、変更内容が製品の品質要求、顧客の要求、製造工程の安定性などに適合しているかを確認します。

このプロセスでは、リスク評価が重要です。変更によって生じる可能性のあるリスクを特定し、そのリスクを軽減するための対策を講じます。

例えば、変更によって製品の性能が低下するリスクがある場合、そのリスクを最小化するための対策(追加の検査、テストなど)を考慮します。

2.3 変更の許可

変更が適切にレビューされ、影響評価が完了した後、正式に変更を許可するプロセスが必要です。

変更の許可は、通常、品質担当者や管理者、設計部門の責任者などの承認を経て行われます。

承認が得られた変更に対しては、製造部門や関連部門に対して通知し、実行する準備を整えます。

承認プロセスにおいては、変更の重要性や規模に応じて、承認を担当するレベルや方法が異なる場合があります。

重要な変更の場合、複数の承認が求められることもあります。

2.4 悪影響を防止するための処置

変更を実施した結果として、品質や納期に悪影響が出る可能性がある場合、その影響を防ぐために必要な処置を講じます。

例えば、変更により品質が低下するリスクが発生した場合は、製品の追加検査を行う、製造工程の見直しを行う、部品の再調達を行うなどの対策が必要です。

また、変更後の製品が顧客の要求を満たしていることを保証するために、必要に応じて再検証を実施します。

この再検証の結果に基づいて、問題が発生した場合には早急に修正作業を行うことが求められます。

 

3. 文書化された情報の保持

IATF 16949は、設計・開発の変更管理に関して文書化された情報を保持することを求めています。

具体的には、次の情報を文書化し、保持する必要があります。

(a) 設計・開発の変更

設計・開発における変更内容とその詳細を文書として記録します。

この文書には、変更の内容、変更理由、変更が製品やサービスに与える影響などが含まれます。

(b) レビューの結果

変更のレビューが行われた結果やその評価内容を文書化し、記録として保持します。

この記録は、後で変更内容が適切に評価されたことを証明するために使用されます。

(c) 変更の許可

変更が正式に許可されたことを記録します。

変更が許可された日時、承認者、承認に至った理由などが含まれる場合があります。

これにより、変更の追跡が容易になり、後で問題が発生した場合に、どのような決定が下されたかを確認できます。

(d) 悪影響を防止するための処置

変更に関連して実施された処置や、その効果についての記録を保持します。

悪影響を防止するために実施された措置が効果的であったかどうかを評価することは、今後の改善に役立ちます。

 

4. 変更管理の実施例

例1: 製品の設計変更

ある自動車部品の設計において、新しい材料を使用することに決定した場合、その変更は製品の性能に影響を与える可能性があるため、次のステップで管理されます。

  1. 変更識別: 新材料の使用が設計変更に該当することを確認。
  2. 変更レビュー: 設計チーム、品質管理部門、製造部門でのレビューを実施し、新材料が既存の製造工程に適合するかを評価。
  3. 変更許可: 変更案が承認され、実施準備が整う。
  4. 悪影響防止: 新材料のテストを実施し、性能や品質が要求を満たすことを確認。

例2: 製造工程の変更

製造工程で新しい設備を導入する場合、その変更は製品の品質に影響を与える可能性があるため、工程設計の変更として適切に管理します。

  1. 変更識別: 新設備の導入による工程変更を識別。
  2. 変更レビュー: 新設備が生産性や品質に与える影響を検討。
  3. 変更許可: 設備導入が承認され、製造ラインに適用。
  4. 悪影響防止: 新設備に関連する工程の変更が問題ないかを監視し、問題が発生した場合に迅速に対応。

 

5. 結論

IATF 16949「8.3.6 設計・開発の変更」の要求事項は、設計・開発段階での変更が製品やサービスの品質に与える影響を最小限に抑えるために、変更の管理が重要であることを強調しています。

変更の識別、レビュー、許可、そして悪影響を防ぐための対策を講じることによって、組織は安定した製品品質を維持し、顧客満足を達成することができます。