目次
1. はじめに
IATF 16949は、自動車産業の品質マネジメントシステム（QMS）に関する国際規格であり、品質向上を目的とする企業にとって、製品品質を確保し、維持するための重要な指針となります。
特に、製品の安全性や信頼性が企業の競争力に直結する自動車業界においては、この規格の適切な実施が企業の成功を支える要素となります。
本記事では、IATF 16949の要求事項の一つである「9.1.1 一般」について詳しく解説します。
この要求事項は、品質マネジメントシステム（QMS）の監視と測定に関する基本的な考え方を示しており、企業がどのようにして自社の品質パフォーマンスを評価し、その結果を改善に活かしていくかを決定するための指針を提供します。
「9.1.1 一般」は、QMSのパフォーマンスを測定し、その結果を評価するプロセスについて明確なガイドラインを示しています。
監視と測定が必要な対象や方法、実施時期などを適切に決定することで、企業は品質改善に向けた確実なデータを収集し、継続的な改善活動を推進することができます。
2. IATF 16949 第9.1.1章の要求事項
IATF 16949第9.1.1章「一般」では、品質マネジメントシステムの監視と測定に関する要求事項が規定されています。
この章の目的は、組織が自社の品質パフォーマンスを評価し、その結果に基づいて適切な改善措置を講じることができるようにすることです。
以下の項目に分けて解説します。
a) 監視及び測定が必要な対象
まず、組織は監視および測定が必要な対象を特定しなければなりません。
監視と測定は、品質マネジメントシステムのパフォーマンスやプロセスの有効性を確認するための重要な手段です。
この対象には、製品の品質、プロセスの効率、リスク管理、サプライヤーのパフォーマンスなどが含まれます。
- 製品の品質: 製造された製品が規定の品質基準を満たしているかどうかを確認するために、監視と測定が行われます。例えば、製品検査、試験、サンプリングなどを通じて製品の品質を評価します。
- プロセスの効率: 生産ラインやサービス提供プロセスの効率も監視と測定の対象です。これにより、プロセスが計画通りに進んでいるか、リソースが適切に活用されているかを確認します。
- リスク管理: 品質に影響を与えるリスク要因を定期的に監視し、リスクの早期発見と対策を講じることが求められます。
- サプライヤーパフォーマンス: 自社の供給者が品質基準を満たしているか、納期通りに納品しているかなど、サプライヤーのパフォーマンスも監視対象となります。
b) 妥当な結果を確実にするために必要な、監視、測定、分析及び評価の方法
次に、組織は妥当な結果を確実にするための監視、測定、分析、評価の方法を決定しなければなりません。
この要求事項は、監視および測定の結果が信頼できるものであることを確保するために、適切な方法を選択し、実施することを求めています。
- 監視方法: 監視は、継続的に行われるべきプロセスです。これには、製造工程中の各ステップでの品質確認、工程の変動の記録、問題の早期発見のための検査手法などが含まれます。
- 測定方法: 測定は、定量的なデータを収集し、実際のパフォーマンスを客観的に評価するための手段です。例えば、製品の寸法を測定するための精密機器の使用や、製品の性能テストなどが考えられます。
- 分析と評価: 監視と測定の結果を集計し、分析することが重要です。分析により、プロセスの改善点や問題の根本原因を特定することができます。そして、その結果をもとに、必要な是正措置や予防措置を評価します。
c) 監視及び測定の実施時期
監視と測定を実施するタイミングについても、組織は適切に決定しなければなりません。
監視および測定は、プロセスの各段階で実施されるべきであり、そのタイミングを誤ると、問題を早期に発見できず、品質に悪影響を及ぼす可能性があります。
- 製造工程中: 例えば、生産ラインでの品質チェックや中間検査は、製品が最終的に完成する前に実施することが重要です。こうしたタイミングでの測定により、不良品を早期に発見し、コストや時間の無駄を減らすことができます。
- 定期的な監視: 日常的な監視活動や定期的な品質レビューも重要です。例えば、品質データの週次レビューや月次の品質ミーティングを通じて、パフォーマンスの傾向を追い、問題の兆候を早期に検出します。
- 改善活動の後: 改善措置を実施した後には、その効果を測定し、新たな問題が発生していないかを確認することが求められます。
d) 監視及び測定の結果の、分析及び評価の時期
監視および測定の結果を分析および評価する時期についても、組織は適切に設定する必要があります。
測定結果を分析するタイミングが遅れると、改善措置の実施が遅れてしまい、問題が拡大するリスクがあります。
- 定期的なレビュー: 監視および測定の結果は、定期的に評価されるべきです。例えば、月次または四半期ごとのレビューを通じて、プロセスのパフォーマンスを定期的に評価し、長期的な傾向を把握します。
- 緊急時の迅速な対応: 異常が発生した場合や品質問題が発生した場合は、その結果を速やかに分析し、原因を特定して、早急に是正措置を講じることが求められます。
- 品質改善サイクルの一環として: 結果の分析と評価は、継続的改善（CI）の一環として行われ、改善活動の効果を評価し、次の改善点を見つけるために使用されます。
組織の証拠としての文書化した情報
最後に、組織は監視と測定の結果に基づいて適切な証拠を文書化しなければなりません。
この証拠は、監視および測定活動の実施状況やその結果が適切であることを示すために使用されます。
文書化された情報は、次のような形で管理されることが望ましいです。
- 監視・測定結果の記録: 例えば、品質検査の記録や、製造工程における監視結果のデータなどが含まれます。
- 評価結果の記録: 組織が評価した監視および測定結果に関する記録も文書化しておく必要があります。これは、後で評価や改善の際に参照できる資料となります。
- 改善活動の記録: 監視および測定結果に基づいて実施された是正措置や予防措置の記録も、証拠として文書化されるべきです。
3. 結論
IATF 16949 第9.1.1章「一般」は、組織が品質マネジメントシステムの監視および測定を計画的に実施し、その結果を分析・評価して継続的な改善を促進するための基礎となる要求事項です。
監視と測定を適切に行うことは、品質向上の鍵を握っており、プロセスの効率化やリスク管理、さらには顧客満足度の向上に直結します。
この要求事項を満たすためには、企業がどのように監視と測定の対象を選定し、実施方法を決定し、タイミングを適切に設定するかが重要です。
そして、分析と評価を通じて得られた情報を基に、適切な改善活動を行うことが求められます。
また、その結果を文書化して証拠として残すことも、透明性を確保し、外部監査においても強力な証拠となります。
組織がこれらの要求事項を確実に実行することで、品質マネジメントシステムのパフォーマンスと有効性が高まり、最終的には自社の競争力を高めることができます。
