IATF 16949 8.6.5項:法令・規制への適合【要求事項解説】

1. はじめに

自動車業界において、製品の品質や性能はもちろん重要ですが、それに加えて製品が法律や規制に適合していることも非常に重要です。

特に、外部から提供される部品や材料が、製造された国や顧客指定の仕向け国で求められる法令や規制に準拠しているかどうかは、企業の社会的責任やリスク管理の観点からも欠かせません。

IATF16949規格の「8.6.5 法令・規制への適合」では、外部から提供される製品やサービスが法令や規制に適合していることを確認し、証拠として記録を保持することを求めています。

本記事では、この要求事項が何を意味するのか、具体的な適用方法、企業としてどう実践していくべきかについて詳しく解説します。

 

2. 「8.6.5 法令・規制への適合」とは

IATF16949の「8.6.5 法令・規制への適合」という要求は、外部から提供されるプロセス、製品、およびサービスが、製造された国や提供される国で適用される法令や規制に適合していることを確認し、それを証明できるようにすることを求めています。

要するに、自社の製造プロセスにおいて、外部から調達する製品やサービスが法的に問題ないことを事前に確認し、証拠を保持しなければならないということです。

この要求は、企業が製品の品質や性能だけでなく、法的な義務や規制も遵守することを確保するためのものです。

特に自動車産業では、規制違反がリコールや罰金、訴訟といった重大な結果を招く可能性があるため、法令遵守は非常に重要です。

 

3. 外部から提供される製品と法令・規制の適合

3.1 法令・規制の範囲

まず、どのような法令や規制に適合すべきなのかを理解する必要があります。

IATF16949の要求において「法令・規制」とは、製品やプロセスに関連するさまざまな法的要件を指します。

具体的には、以下のようなものが含まれます。

  • 環境規制:例えば、製品に含まれる有害物質の制限(RoHS、REACHなど)やリサイクル基準。
  • 安全規制:製品の安全基準や適用される技術基準(衝突安全基準、電気的安全性など)。
  • 産業標準:自動車業界で求められる規格や安全基準(例えば、ISO規格やSAE規格など)。
  • 税関規制:輸出入に関する規制や関税に関連する規制。
  • 労働法規:製造施設や供給者が従うべき労働法に関する規制。

このように、法令や規制は製品の製造過程だけでなく、部品調達や流通、最終的な顧客への納品にまで影響を与えることがあります。

そのため、これらの規制を遵守するために、適切な確認と管理が必要です。

3.2 外部供給品の適合性確認

IATF16949は、外部から提供される製品やサービスが法令や規制に適合していることを事前に確認し、適合証拠を提供できるようにすることを要求しています。

この確認は、特に外部供給品に関して重要です。

供給者が法令や規制に従っているかどうかを確認するプロセスを設ける必要があります。

以下のステップを踏んで、外部供給品が法令・規制に適合しているか確認することができます。

  1. 供給者に対する要求の明確化
    • 供給者に対して、どのような法令や規制に適合する必要があるかを明示します。
    • 例えば、特定の物質が製品に含まれていないことを証明するための書類(例:RoHS、REACH準拠証明書など)を要求することができます。
  2. 供給者からの証拠提供
    • 供給者から法令や規制への適合を示す証拠(例:認証書、コンプライアンス証明書、試験結果など)を受け取ります。
  3. 適合証拠の評価
    • 供給者から提供された証拠を評価し、それが要求された法令や規制に適合しているかを確認します。
    • 必要に応じて、第三者機関による証明書や検査結果を使用して、証拠の信頼性を確認します。
  4. 適合性確認の記録保持
    • 適合性確認の結果を文書化し、証拠として保持します。これにより、監査やレビュー時に適切な証拠を提供できるようになります。

3.3 顧客指定の仕向け国での規制の考慮

製品が出荷される国や地域には、それぞれ異なる法令や規制があります。

したがって、単に製造国の規制に適合しているだけでなく、顧客指定の仕向け国の規制にも適合しているかを確認する必要があります。

例えば、ある部品が製造された国での規制には適合していたとしても、その部品が他国(顧客指定の仕向け国)に輸出される場合、顧客がその国の規制に従うことを要求している場合があります。

そのため、製品のリリース前に、顧客指定の仕向け国の規制も確認するプロセスが不可欠です。

 

4. 証拠の提供と記録保持

IATF16949では、法令や規制に適合していることを証明するための証拠の提供が求められています。

証拠の提供とは、単に「適合している」と述べるだけでなく、適合していることを裏付ける具体的な書類や記録を提示することです。

証拠として考えられるものは以下の通りです。

  • 法令遵守証明書:供給者から提供される製品が特定の法令や規制に適合していることを証明する書類。
  • 試験結果:製品が規制に適合していることを示すための第三者試験機関からの試験結果。
  • 製品仕様書:製品に含まれる材料や成分が法的に許容される範囲に収まっていることを示す仕様書。

これらの証拠は、製品の出荷前に提供される必要があり、規制に適合していることが確認された場合に初めて製品を顧客にリリースできます。

また、これらの証拠は適切に記録として保持し、必要に応じて監査やレビューの際に提出できるようにしておかなければなりません。

 

5. 結論

IATF16949「8.6.5 法令・規制への適合」の要求は、外部から提供される製品やサービスが製造国および顧客指定の仕向け国で求められる法令や規制に適合していることを確認し、それを証明する証拠を保持することを求めています。

このプロセスは、単に製品の品質を保証するだけでなく、企業の法的リスクを軽減し、顧客との信頼関係を強化するために不可欠です。

企業は、外部供給品が法令や規制に適合しているかどうかを確認するために、明確なプロセスを構築し、必要な証拠を収集・保持することが求められます。

この要求事項を適切に実践することで、製品が法的に問題なく顧客に提供されることを確保し、企業の信頼性を高めることができます。